第123話
グランストリートに駆けつけたミアとシャーロットの目に入ったのは顔を隠す黒い布を剥ぎ取られた黒人男性数人と、拳を血で濡らした老人男性、そして無傷の女性である。
呆気にとられてミアは言葉を失うが、シャーロットは直ぐ様に老人、ユージンの元に駆け寄り安否を確認する。
「大丈夫ですか?」
瞬間、ユージンは右手に持っていた銃をシャーロットの脳天に突きつける。
「……『牙』か」
ユージンから剣呑な雰囲気が発せられる。
銃は下ろさず。
「聞きたい事がある」
「その前に銃を…………」
ユージンは真っ直ぐに構えた銃をそのままにシャーロットに歩み寄る。彼の近くにいたクロエは特に気にした様子もない。
何かが起きたとしてもユージンが殺される事はないと長年の付き合いで理解していたからだ。
「俺はお前らを信用してない。何でか分かるか」
「…………」
流石に彼の事情までは理解できない。
碌に説明をしようとしないユージンでは円滑に話が進まないと考え、クロエが口を挟む。
「彼はユージン・アガター」
「……アガター?」
クロエが語った名前、ファミリーネームの部分に二人は聞き覚えがあった。
「もしかして、アリエルさんの……」
「お父さんなの」
クロエがアリエルとユージンの関係を口にする。
「……チッ」
ユージンは不機嫌そうに舌打ちをした。
アリエルとの関係を否定するのも面倒だと感じたからか、何も訂正を挟まない。
「それで、何で俺が信用しないか分かったか」
シャーロットは銃を奪い取る機会を伺っているが、ユージンには何一つとして隙がない。
「アリエルさんは、その……攫われて」
「そこじゃねぇ」
攫われた事など分かっている。
問題となるのは。
「アリエルを攫った奴が居る組織を、ファントムの首魁の容疑者との関係が濃厚な組織を、信じる理由なんざこれっぽっちもねェんだよ」
突然のユージンの言葉に当の『牙』の団員である二人は言葉を失った。
「ど、どの組織が……」
時間にして二秒ほどの短い硬直。
直ぐには理解が追いつかないようで、ミアは動揺しながらも疑問を口にする。
「君たちだよ」
困惑しているミアに対して、クロエは事実を突きつける。
「君たちの所の」
「ゴキブリ野郎だ」
「──まあ、名前は詳しく知らないけど、男の筈だよ。身長は百八十半ば位かな」
クロエの説明を聞いて、二人も思考を回し始める。
「ああ、それとだな。アリエルが攫われる直前、最後にアリエルと一緒に居たやつだ」
「まさか……」
シャーロットは辿り着く。
「オスカー、副団長が……」
その男の名前に。
百八十半ばほどの上背の男性。
最後にアリエルと出かけたと言うのは確かに彼の筈だ。
「オスカー、オスカーか」
名前は把握した。
後はファントムの根城を探し出すだけだ。
「おい、クロエ。行くぞ」
銃を放り捨てユージンが歩き始める。
最早、ミアとシャーロットには興味など無いようだ。
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