第115話

 横目に見た窓の外は、すっかりと晴れ渡っている。

 現在のアスタゴを取り巻く問題とは裏腹に清々しい程の青い空が世界を満たしている。

 ユージンは部屋にあるテレビの電源を点けて、適当に流し聞いていた。


「…………」


 何処ぞの企業の代表が人の良い顔をして、戦争勝利、テロリストの撲滅への助力を宣言する報道をラジオの様に。


「『牙』、か」


 耳に入ってきた言葉に意識を傾ける。

 『牙』。

 警戒を向けるに越した事の無い相手。アリエルの居た研究所を襲った黒ずくめの男が所属する組織。これだけでも怪しいと言うのに。

 クロエの語った可能性と頭の中で結びつけていく。

 アリエルを狙うとして、アリエルの出自を知らなければ手を出そうとは思わないだろう。手を出したところでアリエル本人の力で基本的には対処されてしまう。


 仮に、アリエルの出生を知っているのであれば範囲は限定される。例えば、クロエの様なProject:Aの研究メンバーであったり、ユージンやオスカーの様に爆発事故当日に事情を聞かされ研究所内部に侵入した者であったり。


 或いは。

 実験への出資者であったり。

 エイデン・ヘイズ、この男は可能性の話をすれば黒とも考えられる。まず、潤沢な資金。彼は一大企業の代表である。実験への出資は可能である。『牙』への関与という点もユージンの中では怪しい物となっている。

 オスカーという一人の男のせいで。


「グレーだろ、コイツ」


 それも限りなく黒に近い。

 とは言え、ユージンの憶測の域を出ない。戦争に対する準備の良さも、何もかも。

 怪しめば怪しんだ分だけ、黒く見える。


「……胡散臭ぇな」


 語る言葉も、まるで役者の様な騙りにしか思えなくなる程に。狸の様な男だ。腹の黒さで言えば管理長であった岩松と遜色ないと感じてしまう程に。


「起きてる、ユージン?」


 扉を叩く音と、聞こえてくる声に今度は意識を向け、ベッドから腰を上げてツカツカとゆっくりと歩く。

 扉の前に立ちドアハンドルを掴み、奥に押す。


「どうした」

「ほら、外行くよ」


 彼女の言葉にため息を吐きながらもユージンは従う。

 ホテルの廊下に出て、ユージンは鍵を閉める。


「……エイデン・ヘイズ、だったか」


 先程のニュースを思い出す。


「どうしたの?」


 突然のユージンの呟きにクロエが尋ねる。


「覚えとけよ。限りなく、黒に近いグレーだろうからな」

「……そう、だね」


 クロエも脳を回転させる。ユージンの言葉を否定しないのは可能性として充分にあり得ると思えたからだ。


「もし、エイデンが今回の一連の事件の黒幕だとして。『牙』が敵対するとは考えなかったのかな」


 もしもの話。

 クロエは既に予測している。


「ここまで用意周到なんだから、保険だって用意してる筈……」


 とは言え、全てが予想、予測。確証となる物は無い。だが、完全に否定する材料も無い。だから、可能性の一つと頭の中に留めておく。最も可能性の高い一つとして。

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