第114話
砂レンガの建造、何人かが佇んでいる。
「……なあ、アーティカ」
アサドは、真っ黒のニカーブを身につけた顔の見えない女性に声を掛ける。全身は真っ黒で何を持っているのかも外側からは見えない。
「カイスはどうなったか分かるか?」
アサドの質問に尋ねられたアーティカという女性は、フルフルと首を横に振る。
「フム……ここが難点だな」
兵器を渡されたのは良いが、戦況を具体的に知る術が無い。彼の目で戦場を見に行くなどと言う危険を冒す理由もない。
「兎に角、カイスは死んだかもしれんな」
時間の経過から考えても死んだとしてもおかしくは無い。或いは捕らえられたか。
「アーキルが生きて居るか……どうか」
死んでいるのなら重畳。
死んでいなければ、仕方があるまい。
彼にできる事は少ない。穴熊を決め込み、相手の目から完全に隠れ、戦争を長引かせアスタゴを疲弊させつつ、他のアダーラ教徒に攻撃してもらう。
保険は用意してある。
アサドの鋭い目がアーティカと、その近くに控えた数人の女性と子供に向けられる。黒いゆったりとした衣に包まれた中にはスイッチ作動式の爆弾が巻き付けられて居る。
同時に作動させて仕舞えば、今いる、この砂の居城を破壊し尽くすだけの威力がある。彼女達にはある程度の躾はした。
彼女たちはアサドの生存と聖戦の続行の為に、命を花の様に散らすだろう。儚くも、力強さを感じさせながら。
「ふぅ」
退屈極まる。
何もせずに息をするだけの生活が数日続いている。だが無意味な事をする必要もない。為すべきことを為せ。
この状況で生きる事こそがアサドにとっての
「…………」
アサドは起爆装置を右手の指先で転がす。
これ一つでこの場にいる全ての者が簡単に吹き飛んでしまう。ブルリと身体を震わせた少年が一人。年齢は九つほど。
名はサーヒブ。
死を恐れる、どこにでもいる幼い少年だ。
「サーヒブ。恐れる必要はない」
アサドは教師の様に、諭す様に語りかける。優しく、教えてやるのだ。
「お前の命には確かに価値があるのだから」
アダーラの平和を創造するための、一つの弾丸であると言う価値が。
「……ぃ」
分からない。
少年には何も分からない。何故、この場にいる他の者たちは冷静で居られるのか。まさか、自分が間違っているのか。
サーヒブの心にパキリと罅が入る。
彼の体に巻き付けられた爆弾がどこまでも重たく、心臓の拍動を早めていく。
「……っ、すっ……」
泣きじゃくる様にしゃくり上がるような息がサーヒブの喉の奥からこもって響く。
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