第70話
「目が覚めたか……大丈夫かね、オスカー」
聞き覚えのある声に目を見開けばチカチカと目の奥が痛む。突然の明かりに目が慣れていない。直ぐに体を起こしながら辺りを確認する。
白色の部屋。
ここは病院だ。
オスカーが身体を預けていたのはベッドということだろう。
「エイデン、アンタか……」
起こした身体の痛みに顔を歪めながら、エイデンに向けていた視線を下ろす。
彼の身体には包帯やギプスが巻かれている。
「頭蓋骨への罅、
医者から聞いた情報を伝えているだけだ。
オスカーの生存は奇跡的な状況であった。
「……よく生きて戻ったものだ。それでオスカー、何があった?」
「…………悪い。依頼は失敗した」
伝え忘れていた事実を思い出して申し訳なさげに謝罪とともに吐き出した。
「ふむ。だが研究所は無事に潰せたようだ。エンジェルの確保は……残念だった」
本当に。
求めていたのはオスカーではなくエイデンであったのだから。期待に応えられなかったオスカーは視線を合わせることもせずにポツリと話し始める。
「──邪魔が入った」
思い出すのは炎の中でオスカーを笑う金髪の男。光る青色の目。
あれはまるで、怪物だ。迷宮にある神話の中の化け物のような物。
人が挑み、勝利を手にするとなれば英雄譚として語られてもおかしくない。
「獅子のような男だった。金の髪、青色の瞳。四十後半の見た目……」
余裕とそれに足る強さ。
圧倒的な強さの壁。
手も足も出なかった。
最初の拳もあの男はわざと避けなかったのだ。
「……ユージン」
「それが邪魔をした者の名前かね?」
「女がそう呼んでいた」
ユージン。
忌々しい男の名。
それはオスカーにとってだけではなく、エイデンにとっても。
計画の練り直しだ。
技術の結晶、
神話を始める新たな唯一神。
人が造り上げた神の降臨をエイデンは諦めない。
「──君の命の裏に、君の生存の裏に数多の犠牲があった」
これは紛れもない事実だ。
「ならば、君は彼らの犠牲を無駄にしない為にも神に成るべきだとは思わないかね?」
「信じない……」
「君が生まれたからこそ研究者は死に、我々は希望を抱いた」
だから、全ては君という
「君はこの後、永久に続くアスタゴの平和を約束する
人の想いは神を生み出すに至る。
「エンジェル」
エイデンの右手の指先はアリエルの顎先を撫で、顔を上にして目を合わせる。
美しいサファイア色の瞳は怒りを孕む。
「私はアリエル・アガター、ユージン・アガターの娘で……人間だ!」
それはまるで自らに言い聞かせるように。ボロボロの心を奮い立たせる叫びをあげる。少しの衝撃で散ってしまいそうなガラス細工の心で。
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