第43話
爆発から一分程か。
アリエルとエマの前に現れたアダーラの戦士達の姿。
誰もが似た様な格好をして、統一感がある。
「エマ……!」
仲間の無事を確認するために名前を呼ぶ。
「大丈夫」
煙が晴れた中、ぼやけて見えたエマの姿。安全は確認できた。周囲は他二方の入り口前と変わらない。
「…………」
アリエルの心はどうしてか静かな物だった。
荒ぶるほどの怒りを抱いた様な物ではなく、穏やかに次への対処を考えていた。
血だらけの世界、わずかに晴れぬ煙の向こうから、たった一人がアリエルに向かって高速で走ってきて右手に逆手持ちしたサバイバルナイフを上向きに振り抜いた。
「中々……」
完全に見切ったアリエルに刃先は擦りもしない。その刃が当たったところで『牙』に身を包まれた彼女の身体を傷つける事はできないだろう。
「何のつもりなの」
「神の為だ……」
鋭い視線がアリエルに向けられた。
「勝てるとでも?」
アリエルが構えを取れば、相手も構えを取り再び駆け出した。銃口を向けてトリガーを弾こうとするが、柔らかく上から押さえつけられ銃の向きをズラされる。
「っ」
「どうした、撃たないのか?」
出来るわけがない。
彼女の持つ銃は殺傷能力に於いて危険極まりない物だ。
ただの拳銃だったとしても、もしもを考えて仕舞えば撃鉄は弾けない。
「私の、自由でしょ!」
銃を押さえつけていた男の身体をショルダータックルで吹き飛ばす。
つもりが、感覚が薄い。手応えがない。
「……避けた?」
アリエルの目の前に立つ男の戦闘技能は優れた物だ。紛れもなく一級のもの。
傲慢とも思えるがアリエルは自らの能力に自信を持っていた。父親に鍛えられたのだから、弱い方がどうかしていると思っているから。
「やるな……。完全に避けたつもりだったんだが」
ただ、彼には少なからず効果があった様だ。重心の小さな傾きから脇腹あたりへの痛みでもあるのだろうと、アリエルは考える。
「エマ……」
アリエルは歯噛みする。
早くこの男を処理して、仲間の元へ。だが、簡単な話ではなかった。
「安心しろ。お前の仲間なら死ぬ事は無い」
当然だ。
『牙』を身につけた彼女が負けることなどあり得るわけがない。
「…………もういいか」
何を思ったのか、男は小声を漏らしてから戦線離脱を開始する。
スモークグレネードが投げ込まれて視界を眩まされる。
「……居ない」
煙が晴れて仕舞えば、もう男はこの場には居なかった。
「そうだ、エマっ!」
思い出してエマのいる方向へ向かえば何の問題もなく、戦場に彼女が立っている。
「──大丈夫だよ、アリエル」
仮面がアリエルを向いた。
エマのパワードスーツは少しばかり赤く染まっていた。
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