第19話
賭けに負け、昼を買いに来た二人の背後に近づく影があった。
「よっ、バカ二人」
声をかけたのはクリストファーとアーノルドよりも年上の男性警官だ。
「はあ、こりゃあどうも」
若干の苛立ちを覚えながらも、声をかけられた方向へと振り返る。そこにはがっしりとした体つきの男が立っていて、顔には笑みが張り付けられている。
「お前らも昼か?」
そう尋ねると言う事は、警察官である彼もまた昼を買うために来たのだろう。
「まあ、賭けで負けちまいまして」
「ははっ、元刑事が賭けか」
彼は意地の悪そうな笑みを浮かべた。
「賭けっつってもたかだか昼飯ですがね」
「誰と賭けたんだ?」
「コイツと、後は副団長、エマと新入りです。弾六発のうち何発当てれるかって賭けしたんですよ。最初は私とコイツだけだったんですがね」
「そうなんですよ、途中から副団長が入ってきたんです」
クリストファーが名前を挙げると男は笑った。
「と言うか、お前ら新入りに負けたのか!? オスカーなら分かるんだが……」
信じられない、と言いたげに目を見開いて大声を上げた。
オスカーの実力に関しては彼はよく分かっていた。
「バカにしないでくださいよ。エマも、流石に英雄の血を引いて、エヴァンスを名乗るだけの実力はありましたね。それに新入りは六発全部当てたんですよ」
「……すごいな、その新入り。で、因みにその新入り、名前は?」
「アリエル・アガター。まあ、金髪の娘ですよ」
「金髪の……。ああ、そういやこの前、電車ん中で、お前らんとこの副団長と一緒にいるの見たかもしれんな」
顎を右手でさすりながら男性警官は頭の中に前に見た少女の姿を思い浮かべる。
「えらい綺麗な娘だったな……」
「もしかしたら俺に気があるかもしれないんですよ」
アーノルドが言うと警官は良い笑顔を浮かべて否定の言葉を吐き出した。
「アーノルド、それはないだろうから安心しろ」
「まあ、アーノルドは絶対に有り得ないかもしれませんが……」
「いや何、お前自分はちょっとでもあると思ってんだ。お前もありえないだろ」
容赦のない言葉が突き刺さる。
「まあ、せいぜい頑張れよ」
激励の言葉をかけて彼は先に店から出て行ってしまった。
「なあ、クリストファーよ」
隣に立っている相棒にアーノルドは呼びかけた。それに対してクリストファーは頷く。
「ああ、わかっているアーノルド」
二人の考えは完全に一致していた。
あの、元上司を見返してやる。
憎き男の名前を叫ぶ声は重なった。
「ロペェエエス!」
フィン・ロペス警部補。
それが彼らの怒りを引き出した男の名前だ。
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