第18話

「よーし、クリストファー。勝負しようぜ!」


 射撃訓練室にいたのは二人の男だ。どちらも筋肉質のがっちりした男で、その手には銃を握っていた。


「よし、乗った。どっちが的に多く当てれるか。ルールはそれでいいか?」


 勝負しようと提案したアーノルドに、ルールを決めるクリストファー。


「よし、負けた方が今日の昼飯奢りな!」

「ああ」


 射撃を始めようとしたところ、背後からオスカーが現れる。


「ほほう、その話は本当か?」

「ゔぇ? オスカー副団長?」

「オレも混ぜてくれるよな?」


 驚いたようにクリストファーが振り返ると、とても素晴らしい笑顔を浮かべたオスカーが銃の確認をして立っていた。


「──球数は?」


 確認すると、アーノルドが正直に答える。


「六発です!」

「そうか」


 オスカーは右手に銃を持って構えてよく的を狙う。

 六回の発砲音が響き、銃口からは煙が吐き出される。

 人型の的の頭、胸、右肘、左肘、右太もも、左太ももを的確に撃ち抜く。

 六つの穴が開く。

 銃をしまってオスカーがニタリと笑いながら告げる。


「割り勘で良いぞ」

「あー、まだ分かりませんよ?」


 とは言いながらも、クリストファーも実際のところ、オスカーに勝てるような気はしていなかった。

 物は試しとクリストファーが思っているとアーノルドがすでに始めていたようで、結果としては六発中三発。

 少なくとも四発を当てられればいい。

 どうしてかクリストファーは緊張を覚えながらトリガーを弾く。


「外れたな」


 オスカーが笑う。

 これでオスカーに勝てなくなったのは確定だが、まだアーノルドに負けたわけではない。

 二発目を打つ。

 右の脇腹を抉り抜く。


「ふーっ……」


 たかだか、昼飯代を賭けているだけだというのに何故、彼はここまで緊張しているのか。


「あれ、何してるんですか?」


 背後から声をかけられて、トリガーにかけていた指が弾かれてしまった。弾丸の軌道は的から大きく逸れる。


「ん、アリエルとエマか……。昼飯を賭けて勝負してたんだ。どうだ、やるか?」


 などとオスカーがふっかけるとエマは乗り気のようでアリエルもこのゲームに参加することにした。


「さっきのはノーカンにしてやる」


 オスカーがクリストファーに言うと、クリストファーも責めるような気持ちも完全になくなった。元々、これがオリバーやフィリップであればとやかく言ったものだが、相手は女性だ。優しくせねばなるまいという紳士の心を自称天才のクリストファーは持っていた。


 そして、なによりもエマの実力は分かっており、射撃の腕も高いため今回の賭けでは負けてしまうかもしれないが、アリエルの実力はわかっておらず、もしかしたら勝てるのではないかと言った思考がクリストファーの脳内をよぎっていた。

 ただ、彼の思考はオスカーには手に取るように理解できた。


「ほら、早くしろー」


 オスカーに急かされるものの、先ほどよりもクリストファーの心は落ち着いている。

 落ち着いて的を狙って。

 集中して放たれた弾丸。

 五回の試行により、的に空いた穴の数、三つ。


「ほら、次はどっちからやる?」


 オスカーが聞くとエマが先に、彼から差し出された銃を受け取り弾をリロードしてから的に銃口を向けると、引き金を引いた。


「おお、五発か」


 エマは最初の一つを外したが、次からは完璧に捉えてみせた。


「最後はアリエルか……。これでアリエルが勝ったらお前ら、ちゃんと全員分昼飯奢るんだぞ?」

「は、ははっ……」


 もはや乾いた笑いしか出ない。

 そして、クリストファーの思考を切り裂くように弾丸が走る。

 放たれた弾は的確に的を射抜き、穴を開けた。

 一発目の命中。

 続け様に二発、三発と躊躇うことなく撃つ。全ての弾が見事に、的に当たる。

 クリストファーとしては予想外の結果だ。


「行くぞ! アーノルド!」


 悔しげな顔をしたクリストファーはアーノルドを連れて昼飯を買いに基地の外に向かった。

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