第20話

 店から出たフィンは駐車場に止めてあるパトカーのドアを開いて、助手席にどかりと座り込んだ。


「フィンさん」

「ほらよ、リチャード。お前の分だ」


 車内で待機していたのはフィンの部下である青年で、その体つきはクリストファーとアーノルドと比べて華奢に見える。

 運転席で待機していた彼にフィンは先ほど買ってきた昼飯を投げ渡す。


「ありがとうございます」

「おう」


 パトカーに乗り込んで、渡されたバーガーを頬張るとリチャードは助手席に腰掛けているフィンへと視線を向けた。


「それにしても、全く手がかりが掴めませんね」


 リチャードという若き警察はとある組織の捜査に熱をあげていた。


「そうだなぁ」


 それを知っているフィンはどうでも良さげに頷いてみせた。


「そうだなって……。フィンさん、やる気あるんですか?」

「つっても、全然見つからないからな」


 片手に持っているバーガーを食べて、ドリンクを流し込む。


「この前だって惜しい所まで行ったじゃないですか!」


「惜しいところって……。たぶん、ありゃあ末端だ。下っ端いくら捕まえたところで何の情報も吐きゃしねぇよ」


 フィンは口についたソースを右手親指で拭い、指についたそれを舐める。


「はあ……、俺もファントムのボスの逮捕に貢献したいですね。そしたら俺も昇級できますし」


 リチャードの言葉を聞いてバーガーを食べ切り、ドリンクを飲んで口を潤わせたフィンは溜息を吐いてから告げる。


「ははっ、お前にゃ無理だ」


 断言だった。


「ちょっ、何でですか!」


 リチャードは受け入れられなかったのか車内で、隣に座るフィンの方へと顔を向けて叫んだ。


「お前にできるんなら、とっくにファントムのボスなんざ捕まってるよ」


 フィンの言葉をリチャードに否定する事はできなかった。若造の彼がファントムのボスを逮捕する。

 出来るわけがないとリチャードも心の何処かで理解できていたから。


「それも、そうですね。はあ……」


 捕まえることができたのなら、まるでドラマの様なサクセスストーリーだ。リチャード本人としても、自分の存在はドラマとは縁遠い存在であるとは思っている。


「ほら、パトカー出せ。食い終わったろ?」

「分かりましたよ」

「俺が急かしたからって、事故るなよ?」

「分かってますって」


 エンジンをかけてリチャードはパトカーを発進させた。


「──お前にゃ無理だな」

「何でもう一回言ったんですかね?」


 リチャードは溜息を吐きながら呟く。


「気にすんな」


 フィンの視線は店から出てきた二人の男を見ていた。


「それに事件だってファントムだけじゃないからな」

「分かってますよ。……あ、でも、最近だと裏でファントムが糸を引いてるんじゃないかって言うのもあってですね?」

「お前なぁ。それは小説とかドラマの見過ぎだ」

「ですよね。いや、流石にそれを信じるほど俺も間抜けじゃないですよ?」


 注意を受けたリチャードは苦笑いを浮かべながらも、丁寧な運転を続ける。


「…………」


 助手席に座るフィンは、リチャードの顔を見た後で悩ましげな表情を浮かべた。

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