第13話
電車内に入り込んできた警官に向けてオスカーが一言、挨拶を交わした。
「どうも」
事件を起こした男はアスタゴの原住民であり、過去に白人たちによる差別を受け過酷な生活を余儀なくされていた。
とは言え、起こした事が事であったために情状酌量の余地などと言ったものはないだろう。
男を引き取りに来た警官はオスカーの姿を見ると敬礼をする。
警官が引き取るまで、オスカーにより捕縛された男は白人男性に蹴られるなどといった暴行を加えられていたためにか、体はボロボロだ。
全身は痣だらけで、もはやどちらが被害者か加害者なのか。いや、勿論痣だらけになってしまった彼は殺人を犯しているのだから加害者であるのは間違いない。
それでも、白人の男が何度も何度も蹴りつけると言う光景は見ていられた物ではなく、途中でアリエルが止めなければ更に長時間に渡り続いただろう。
嫌悪の表情を見せて舌打ちをした、その男の顔を電車内にいた人々は目にしていた。
気持ちの良い物ではなかったはずだ。
「ああ、『牙』のオスカーさんでしたか」
警察官のガタイのいい男は四十代ほどの見た目をしており、肌の色は原住民の肌の色を少し薄くした様な色をしている。
「クリストファーとアーノルドが世話になっております」
アリエルには聞き馴染みのない名前ではあったがオスカーはその名前を知っている様で「ああ」と、小さく頷いた。
「あの馬鹿どもは、ウチじゃ扱いにくいですからね」
警官の男は苦笑いを浮かべる。
「いや、良い働きをしてますよあの二人は。実に勇敢だ。警察官らしい」
オスカーの答えに一瞬だけ間が開くが、直ぐにそれを警官は笑い飛ばした。
「ハハハ! あの二人が? 勇敢? 大馬鹿、向こう見ずの間違いでしょう!」
彼は信じられないと思っているのか、それともオスカーのジョークだとでも思ったのか。
ただ、こんなことを話している場合ではないと思ったのか咳払いをすると、
「一先ず、協力感謝します。では」
と言って警官の男は犯人を連れて電車を降りて行った。
「あの、先程の警官さんは知り合いなんでしょうか?」
親交の深さを感じさせる様な会話をしていたからだろう。警官とオスカーの関係性が気になると言うのは仕方がなかった。
「まあ、あの人の部下だった奴が二人も『牙』の団員なんだ」
事実だけを簡潔に述べると、さらなる興味がアリエルの中に湧き上がる。
「その二人はどう言う人なんですか?」
「あー、あの二人か。……まあ、会えばわかる。取り敢えず悪い奴らではないさ」
誤魔化す様な答えを返してからオスカーは電車から降りてしまう。置いていかれない様にとアリエルはその背中を追いかけた。
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