第11話
「社長!」
「オスカー副団長!」
互いの上司に女性二人が呼びかける。エレベーターから降りて二人がいる玄関近くの方へと歩いてくる。
「何を話してたんですか?」
アリエルがオスカーに尋ねると、平然とした様子で彼は答えようとするが、それを遮るようにエイデンが答えた。
「ただの世間話だよ」
「……そう言うことだ」
溜息を吐き、後頭部を掻きながらオスカーは言った。
「そちらは、大丈夫だったかな?」
エイデンはニコリと笑いながらカタリナを一瞥してから、横に立つアリエルへと視線を運ばせる。
「はい?」
「いや……、カタリナが失礼をしなかったかな、と思ってだね」
エイデンがアリエルに尋ねた瞬間にカタリナの脳裏には先程の行いの全てが過ぎっていく。よく考えてみたら客に対する態度とは思えないようなことをしている。
カタリナはポーカーフェイスのように笑顔を浮かべてはいるが、嫌な汗が流れる感覚があった。
「失礼なんて、そんなことありませんでしたよ。とても良く対応してもらいました」
「そうかそうか」
彼女の応対にカタリナはホッと胸を撫で下ろす。
「今回はありがとうね、カタリナ」
「いえいえ」
「さてと。アリエルくん」
「は、はい!」
既にハワードくんには伝えているが、と前置きをしてから告げる。
「『牙』の完成まで一週間ほどかかる」
「はい」
元々、アリエルがオスカーが話していた予定とほぼほぼ変わりはない。
「届けさせるのは……」
「はい! 私が責任を持ってアリエルさんに届けさせてもらいます!」
「……と言うわけだが」
元気いっぱいにカタリナが『牙』を送り届ける役に立候補をする。
構わないかな、と質問するような顔でエイデンはアリエルを見つめた。
「私は構いませんが……」
彼の視線を受けて、今度はアリエルがチラリとオスカーの顔を見上げる。
「ん、オレは良いと思うぞ。見知らぬ顔に送り届けられてもアリエルが困るだろうしな」
この時点で、彼らの意識から一つの問題が抜け落ちているのだが、そこまでの思考には及ばなかった。
「ふむ、ならアリエルくん。カタリナに向かわせるから、その時は宜しく頼むよ」
エイデンは微笑みを湛えて別れの挨拶を告げて去ろうとする。
「──それと、ハワードくん、アリエルくん」
エレベーターの方へと向かう足を止めて背中を向けたままに忠告を一つ。
「ここ最近、アスタゴの各地では暴徒が確認されている。君達も気をつけると良い」
「オレ達は一応、精鋭部隊ですよ?」
「余計な心配だったかね……。まあ、それだけだ」
エイデンは再び歩みを進めた。
「あ、アリエルさん。後日、またよろしくお願いしますね」
先程までの節操なしの絡み合いをするつもりはないようで、会話にもその様子が表れている。
もしも、この場にオスカーが居なければどうなっていたかは想像に難くない。アリエルに抱きついて、別れを惜しんだことだろう。
「はい、こちらこそお願いします」
「では気をつけて!」
カタリナの言葉を聞いてから、オスカーとアリエルの二人はエクス社ビルの玄関から外に出る。
夕日が差すセアノの街の中、そこには変わらず人の海が広がっていた。
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