第63話
一つの戦場で起きる、三つの戦闘はどれも勝ちを譲らない物ばかり。
ディートヘルムの剣撃に、負けじと応戦するルイス。どちらも巧みな技術で競り合っている。
いや、僅かにディートヘルムが有利だろうか。
二対一の戦いを迫られるカルロスは、二機の技術の甘さを突く形で渡り合う。
アメリアは相変わらず、苦戦を強いられる。
「川中!」
竹崎が叫べば、呼ばれた川中はその隙をフォローするように立ち回る。
この攻防、長引けばカルロスはさらに苦戦する。徐々に、竹崎と川中は戦闘に慣れていっているのだ。
ハルバードでカルロスが攻撃をするも、それは前に出たどちらかの盾により、弾かれる。銃も同じだ。
『はぁっ!』
ハルバードを勢いよく盾で弾かれたカルロスの乗るタイタンは後ろに仰反る。
そこに川中は追撃を喰らわせていく。
バランスを崩したものの、カルロスも適応する。
迫る剣撃を右腕の盾でいなす。
『────っ』
深追いは不味い。
川中は慌てて大剣を引っ込めて、後ろに下がる。
「ふっ」
カルロスの乗るタイタンは銃撃を放つ。
一発、二発、三発。
弾丸は盾に当たり、あるいはリーゼの肩を掠めるばかりで、有効打になりはしない。
相対するカルロスの脳内にはやはり、疑問があった。
先程から、全く戦闘に参加しようとしないマルテアの機体のことだ。
何を考えているのか。
どんな行動を起こすのか。少しばかり怖くもあった。
この疑問は先程から脳の中をちらついていた。
動かぬリーゼに気を向けてばかりいては戦場では無残な死を遂げるだろう。
『──わかりました』
そんな声が通信に響いて、ブツッ、と何かが切れるような音がした。
不動であったマルテアのリーゼが遂に動き出した。
駆け出したのはカルロスのいる方向。
拙い。
カルロスは危機感を覚えた。
三対一ではどう考えても勝つことはできない。
「川中!」
名前を叫び、竹崎は川中を押し飛ばす。
何故、このようなことをしたのか。
『真衣……!?』
突然のことに川中の思考が追いつかない。
ただ、直ぐに現状が理解できた。
自らを突き飛ばしたリーゼの胸には、大剣が深々と突き刺さっている。
突き刺したのは、同じ色の巨神。
クラウディアの搭乗するリーゼであった。
『どういう、こと……?』
疑問が自然と川中の口から漏れた。
だが、既に彼女らとクラウディアとの通信は繋がっていない。
「川、な、か……」
竹崎の口から、か細い声が出た。
もはや死に体。もう長くない。
温かい赤に彼女の体は浸っていく。
先ほどの自分を呼ぶ声に川中は気がつかされる。もう、竹崎は助からないのだと。
だから。
だから。
『──まってよ……』
呼び止める声に意味はないはずなのに、それでも待ってくれと人は言う。理不尽は待ちもせずに、何もかもを奪っていく。
『ねぇ。……何で?』
庇わなければ死んでいたのは川中だった。何故、竹崎が死ぬ必要があったのだろうか。川中で良かったはずなのだ。
でも、竹崎は認めない。
「良か、った……。今度は、私が守、れぁ……よ」
嬉しそうな声色で、顔も見ることのできない彼女は満足したように、最後にそう告げた。
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