第61話

「こちらディートヘルム……。応答願う」

『こちら、クラウディア……』

「戦力の補充は……」

『マルテアはノースタリア軍との交戦中により、戦力はこれ以上、割くことはできません』

「我がグランツ帝国も同様。……後は、陽の国だが」


 通信は先程から、飯島に繋がっているというのに応答がない。


『ごめんなさい……、ごめんなさい……』


 小さな声が聞こえて、クラウディアは言葉を吐き出せずにいた。


「陽の国からは二機の増援が来ると聞いた」


 話していても、どうにもこの話には希望など見えず、どこまで行っても絶望に浸り込んだままだ。


「まだ、来ないのか……」


 いい加減に待ちくたびれたのか小声で漏らすと、ガチャと通信がつながった。


『陽の国から増援に来ました、竹崎真衣です……』


 震える声が通信機に通る。


『同じく、川中詩水です』


 二人の少女の声が響く。

 彼女らの声が聞こえたからと言って、現在の彼らの醸す雰囲気が変わるわけではない。


「この通信を聞いている皆は分かっていると思うが、南西海岸からの集中攻撃指令が出ている」


 情報を確認すると、誰も文句を言うことなく、話を真剣に聞いていた。

 ただ、小さく謝罪を繰り返す声が響き続けていた。それがどうしても、通信を聞くものの心を揺さぶり続けるのだ。

 大切な仲間が死んでしまったと言う事実を突きつけ、折れてしまいそうだ。


「アスタゴ本土へと上陸、攻撃。この通りで構わないな」


 淡々と告げられた声。

 再びの戦火を交えることとなる。恐怖と緊張の世界へディートヘルムは身を投じることとなる。

 何故、彼はこうして戦っているのか。

 彼が思考を巡らせた時に、全ての原因は愛する母であることを思い出す。憎く思うとも、愛が優ってしまう。


 この様な血が流れていなければ、今でも恐ろしい場所で過ごす必要は無かったのだろうか。

 ディートヘルムはグランツ帝国生まれの父と、その周辺国からの移民である母の間に生まれた。

 ごく一般的な家庭で、極めて、平凡な生活をしていた。類稀なる能力があったことは家族も喜んでいたのだ。


 ここ何年かで、グランツ帝国では統治者の代替わりが起き、周辺国との争いが熾烈となっていった。

 そして、遂に起きたのが、この戦争であったと言うわけだ。

 どこの家庭も我が子は可愛い。

 そんな中、最悪な徴兵制度が始まった。

 移民の子は忌み子。

 ならば、戦場でその罪を洗い流せよ。

 移民であった、ディートヘルムの母は収容所に収監されてしまった。

 移民の子供であったディートヘルムは軍事施設に入れられて、こう告げられたのだ。


『家族を救いたければ、グランツ帝国の為に戦え! 生命を賭せよ!』


 逃げられるわけがなかった。

 移民の血を引く彼らは探し出され、連れ戻される。どこへ行っても、グランツ帝国内では迫害の嵐だ。


『さすれば、君たちの汚れた罪深き血も赦されるはずだ!』

 


 ──ワタシがグランツ帝国を愛するなどあり得ない話だ。


 

 恨む言葉をディートヘルムに吐くことはできなかった。彼は母を救う為に戦わされている。

 否、たとえ、地獄の先に何もなかったとしても、戦う以外の選択肢など残されていなかっただろう。


「これより、作戦を開始する!」


 覇気のこもった声でディートヘルムは高らかと告げた。

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