第60話

『君たちの船が、飯島君の船と合流したのを確認した』


 船内のある部屋にいる二人の少女はヘッドギアを身につけ、連絡を取っていた。


『これより、西海岸から攻撃を仕掛ける』


 岩松が作戦内容を伝える。


「全員で、ですか?」


 川中が尋ねると、岩松の答えが返ってきた。


『うむ、戦力は十分に投下する。そうしなければ勝利は不可能だ』


 東海岸での攻防。

 あれを攻防と言って良いものかは分からないが、どう見ても、誰が見ても、完全に敗北だった。

 戦慄を覚えるような光景だ。

 真っ赤なそれが闇の中、黒を薙ぎ倒す。蹂躙されていく。そんな真紅を討ち倒すのはどれほどの芸当が求められるのか。


「でも……」

『戦力の問題はない。マルテアとグランツ帝国もいる』


 岩松はアレほどの兵士は中々いるはずがない、と考えていた。

 事実、岩松の考えの通りだった。

 機体性能はアスタゴが上回ってはいるが、西海岸にいるタイタンは技量によっては倒すことのできる敵だ。


 実際に、間磯が倒して見せた。

 ただし、これは一機のみの場合だ。間磯の戦闘のおかげで、控えているのは一機のみではないことは分かっている。

 ならば戦力を密集させて、突き込む。

 もはや、それはギャンブルに近しい。ただ、こうするしかアスタゴの防壁を突破できないのだ。

 アレがある限り空襲も無意味に近い。


『我が国の為に』


 愛国心に狂った男は、この言葉に何よりもの効力があると思っていた。

 だが、結局のところは精神の弱いところへと付け込む、ただの汚い大人のやり口であったのだ。

 しかし、だからこそ。

 この二人には断ることができなかった。自らの求めるものが、与えられるかも知れなかったから。


「…………」


 通信は一方的で、そこで切れた。

 甲板に出れば空はうっすらと明るく、夜が明けるというところであった。


「真衣」


 竹崎は自らを呼ぶ声に振り返る。

 恐れを忘れようと無理に歯を剥き出して笑う川中がいる。


「大丈夫だよ」

「川中」


 嘘だということはわかっている。

 それでも、きっとこれが川中の優しさなのだと、竹崎は疑わない。


「えと、……頑張ろう」


 いつも通りの言葉、いつも通りではない状況。死ぬかも知れないという未来に立ち向かうには、その言葉はあまりにも脆いものだ。


「──うん」


 だが、何もないよりはきっといい。

 ヘッドギアをつけた二人はリーゼに乗り込む。


「きっと、川中は死んじゃいけない人だ……」


 でなければ、彼女の優しさが報われない。

 善き人は長く幸せに生きられる。優しい道理がこの世界にあるわけがない。

 それでも。

 いや、だからこそ生きてほしいと竹崎は願うのだ。

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