第38話
爆風が木々を揺らす。世界がブレる。爆心地となったリーゼは焦げて原形を留めずに吹き飛んでいる。
焦げ臭い匂いが辺りに充満し、爆風が晴れたその場所に右腕を失った赤い巨兵。タイタンがそこに立っていた。
『──おい! 大丈夫か、ミカエル!』
リーゼパイロットとは違い、口元が空いている通信機能持ちのヘルメットから慌てたような声が聞こえてくる。
「大丈夫だよ。命に別状はない」
ミカエルの返答を聞き、ほっと息を吐き、胸を撫で下ろす。
突然、轟音が鳴り響き送られてくる映像が暖色に染まってしまったのだから焦らないわけがない。
「ただ、残念だけど右腕が持ってかれちゃったし、左腕も制御が効かない。機体はボロボロ。もう戦闘は出来ないかな」
淡々と現状を説明すると通信機の向こうにいる男はすぐに答えた。
『ああ、十分な成果は見ることができた。自爆にさえ気を付ければ戦力として問題はないだろう』
「なら、俺はもう帰っていいよね、アダムさん?」
『ああ、構わない』
「アイザックさん達に謝ったほうがいいのかな?」
せっかく、整備してくれたと言うのにたった一度の戦闘でここまでボロボロにしてしまってはミカエルも申し訳なさを感じる。
『いや、君が生きているだけで彼は喜ぶさ。それに、もし謝りに行くというのなら謝りには私が行こう』
どこか陽気さを感じさせるような声でアダムがそう提案した。ミカエルにしてみれば謝りに行くのは面倒なことであるのだが、アダムという男にはそれが嬉しく感じるようだ。
奇妙な人だと、ミカエルは思った。
ただ、それはミカエルの認識の上ではだ。アダムが嬉しさを感じているのは、アイザックという英雄と話すことができるからだ。
「アダムさんもおかしいよね。オジさんに会っても俺は嬉しくないよ」
『馬鹿! お前、あの人はアスタゴの英雄なんだ。そこらのおじさんとは違う!』
若干の早口でアダムが言うと、ミカエルは興味なさげに溜息を吐く。
地面を揺らしながらタイタンは海へと向かい歩いていく。
「……早く帰ってドラマが見たいな」
『アスタゴに戻れば見放題だ』
アダムが答えると、ミカエルは疑問を口にした。
「いいのかな?」
『何がだ?』
「いや、俺がこんなに贅沢してもさ」
ミカエルの問いにアダムはふと笑い、
『君は最強だからな。これっぽっちの贅沢なんて贅沢とは言わないさ。君ならアイザックさんに次ぐ英雄になれる』
と答える。
「別に英雄なんかに興味はないけど」
──少しは楽しめるといいな。
負けたことがない。張り合いがない。楽しくない。スリルがない。
そんな退屈な世界から抜け出そうとして飛び込んだ命がけの世界でなら、きっと何かが得られると思ったから。
それだけ、ミカエル・ホワイトという男は強すぎたのだ。
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