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出水紫苑

短編



目の前に広がるオレンジ色の景色。

逆光で建物は黒く映り、一時間前までの青空が嘘のようだ。


「ね、何見てるの?」


教室の窓から空を眺めていたら、ふわりとフローラルな香りがわたしを後ろから包んだ。


「別に」

「えーつれないなー。彼女にはもうちょっと優しくしようよー」


後ろから抱きしめられ、柔らかいものが背中にあたっている。同性でも関係性が違うとドキドキするものなんだな。


「学校ではやめてって」

「むぅー朱里(あかり)冷たいー」


彼女とは一週間前から付き合い始めたばかり。

入学直後から言い寄られていたがずっと無視し続け、遂に根負けして付き合うことになったが付き合いたてで浮ついている彼女は言い寄られていた時より鬱陶しい。


「はいはい。ほら、委員会終わったんでしょ?帰るよ」

「はーい」


少し冷たくし過ぎたか、ふてくされたような返事が返ってきた。


(もう...)


「七香(ななか)」

「ん?」


帰る準備をしようと私から離れた彼女は、顔だけ振り向いた。


「んっ…」


私は彼女にキスをした後、呆然としている彼女の横を通り過ぎ鞄を手に取った。


「ほら、行くよ?」

「え…うん。っじゃなくて!!え、い、今の何!?」


声が大きい。注意も込めて眉間にシワを寄せる。


「何って、キス?」

「そう!キス!なんで!!」

「え、嫌だった?」

「そうじゃなくて…。なんで、キスしたの?」


逆光で彼女の表情が見えない。勝手にキスしたことを怒っているのだろうか。初めてだったし。

自惚れているみたいで嫌だが、彼女はもっと喜んでくれると思っていた。


「んーしたかったから、かな」


本当はふてくされられると面倒だから飴をあげて機嫌を治してもらおうと思っただけなのだが、それを言うとまた機嫌を悪くしそうなので言わない。


「.........」

「七香?」


彼女が黙ってしまったので近づくと熱が伝わってくるほどギュッと抱きしめられ十秒ほどキスされた。

息が苦しい。


「ちょっと…ここ学校だって」

「自分だってしたくせに」

「私は一瞬だったじゃん」


彼女は納得がいかないという顔をしている。

そして私におでこを合わせた。


「あーあ。初めてのキスは私からすると思ってたのになー」

「なんで?」

「朱里、渋々私と付き合ったって感じだったし。まさかされるなんて思わないじゃん。それに…不意打ちとか…ずるい」


彼女が俯く。すると抱きしめられた状態の私は、彼女の息が胸元にかかりなんとも居心地が悪かったので、彼女を覗き込むようにして身体をずらした。


「ずるい?」

「心の準備が出来てなかったからドキッとしちゃったじゃん」


その言葉を受けS心が湧いた私は、わざと拗ねて見せる。


「へー。心の準備できてたらドキドキしないんだ」


すると彼女は私を離し両手をわたわたさせながら慌てたように弁解した。


「違う違う!心の準備できててもドキドキするけど不意打ちだと余計にドキドキするの!」

「ふふっ」


あまりに必死でつい、笑ってしまった。そのせいでわざと拗ねてみせたのがバレてしまったようで彼女はそっぽを向いてしまった。


「もー朱里ホント意地悪」

「好きな子にはなんとやら、だよ」

「そんなこと言っても騙されないんだから」

「本当だよーじゃなきゃ付き合わないって」

「本当?」

「ふふっ」


泣きそうな顔で見てくるものだからおかしくなってまたまた笑ってしまった。


「もうっ」


『わたし怒ってます』というアピールなのか、腕を組んで背を向ける。

だけど私はそんな彼女を後ろから抱きしめ、耳元でささやいた。


「七香、可愛い」

「〜〜〜っ」


彼女の真っ赤になった耳を見てまた笑う。

ホント可愛いなー私の彼女。そう思いながら彼女の手を引き教室を後にした。

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