鬼山
四志・零御・フォーファウンド
鬼
僕の住んでいた
鬼山の恐ろしい話。
それは全国の武将たちが争いを起こしていた戦国時代にまで遡る。紀平村に佐助という村の若い男がいた。その男は野平山(鬼山の正式名称)へ行った村の仲間が戻ってこないと聞き、様子を見に行こうと思い立ったのだ。しかし、その山には盗賊がいるという噂があったために、火縄銃を持っていくことにした。
「おーい、
彼は行方不明になった男の名前を叫びながら、山の奥へ、また奥へと進んで行く。
もうすぐ頂上というところで、後ろからガサガサという茂みの動いた音がした。
佐助は火縄銃を構える。山賊だろうか。それとも熊でも現れたのだろうか。佐助の額から汗が流れる。
ガサガサという音は次第に佐助の元へ近づいてくる。
火縄銃の引き金に指を掛ける。
しかし、茂みから出てきたのは幼い少女だった。その顔を見て先程までの緊張感は解れ、安堵の表情を浮かべる。
「ひな子!」
ひな子は長老の孫だ。幼いながらわんぱくで、いつも外を歩きまわっている。
一度、ひな子が行方不明になったことがあった。一大事と村民総出で探したところ、隣の村で発見された。それからというもの、2度と起こらないよに村民たちはいつも目を光らせていたのだ。
……しかし、
「なんでこんなところに?」
村民の努力も虚しく、ひな子は山登りをしていた。
「さすけにぃちゃん、めずらしいもん、もってたから、ついてきた」
ひな子は、佐助の肩に背負っている火縄銃を指さして、笑顔で答えた。
「ひな子、これはな、危ないもんだ。絶対に触っちゃいかんぞ」
「うん、わかった!」
大きな声で頷く。
「さて、ひな子、村に戻るぞ」
「どーして?」
「ここには危ないもんがたくさんある。ひな子みたいなもんだと死んじゃうかもしれない。ひな子が死んだら村長に申し訳ねぇからな」
今日のところは戻るしかない。いまのところ、一平の手がかりは何ひとつ見つかっていない。準備をし直して、また明日にしよう。
「てぇ、握っとけ」
「うん」
佐助が手を差し出すと、ひな子は手を握った。
その時だった。
グオン、グオン、グオン、グオン、グオン……。
聞いたことのない重低音が辺りに響いた。佐助は咄嗟に火縄銃に手を掛ける。
「さすけにぃちゃん、今のは?」
「しっ!静かにしてるんだ。俺の後ろに隠れてろ」
ひな子は指示通り、背中に隠れた。
グオン、グオン、グオン、グオン、グオン……。
またしても、音が響いてきた。どこから聞こえてくるのかは全く分からない。
「ひな子、急いで山降りるぞ。てぇ、絶対に離すんじゃないぞ」
「うん」
佐助には、何かが近づいてくるのは分かっていた。しかし、それが何なのか、見当はついていなかった。けれど、佐助にはそれが人ならざる者だと本能に近いもので感じていた。
下山の途中、何度も重低音は鳴っていた。しかし、いつの間にかそれは無くなっていて、村に辿り着くことができた。
「佐助!」
村の入り口には疲れ切った表情をしている村長が立っていた。
「佐助や、ひな子がぁ、ひな子がぁ!」
「村長、落ち着いて。ひな子なら俺が連れてきました」
佐助は背中に隠れていたひな子を前に引っ張りだす。
「ああ!ひな子!心配したぞ!よくぞ戻ってきた!」
「じっちゃん!」
ひな子は村長に抱き付く。なんだかんだで、寂しかったようだ。
「ああ、良かった。佐助、おまえのお陰で……」
村長は言葉を止め、固まっている。
「……村長?」
村長は恐怖に満ちた表情で、震えながら佐助を指を差す。
「どうしたんです?」
「……っ、後ろ、……おっ、――鬼」
砂利道の真ん中に佇んでいるそれは、人の形をしていて漆黒よりも黒い。空間に無が存在していると言われても疑えないものだった。
「あれが鬼?」
「佐助!貴様、鬼を連れてきよったな!」
『あー、あーーあああー……』
鬼は甲高い声で鳴き始めた。
「い、いますぐ村人に避難をするように伝えるんだ!」
「わ、分かりました」
状況を飲み込めていない佐助は村長の指示に従う他ない。
「佐助、孫を頼んだ」
「……はい」
「おじぃちゃん?」
「ひな子、佐助の言うことを良く聞くんだぞ」
「はーい!」
「よし、いい子だ」
村長はひな子の頭をぐしゃぐしゃと撫でる。
「佐助、村人に避難を促したら町へ出向け。そして、鬼殺しを探せ」
「そいつは一体何者なんです?」
「そいつに頼めば、村は救われる。鬼を殺せねえとなると、この村には戻れねえ」
甲高い声が再び響く。徐々に大きな声になる。
「ああーーー、あああ、あーーー!!!」
村長は佐助の背中を叩く。
「ほら、早く行かんか!」
「村長は?」
「村長としての役目を果たさなくてはいけん。行かんか!」
村長の目はどこか寂しげだった。佐助は村長とは二度と会えないことを察し、火縄銃を手にして、ひな子を背中に担ぐと、後ろを振り返ることなく走り出した。
*
「……話は分かった。よし、鬼退治と行こうじゃないか!」
鬼殺しを見つけるのは思っていたより容易なことだった。隣村の団子屋で鬼殺しはどこにいるかと尋ねたその人が鬼殺しだったのだ。ぼさぼさ頭で酒臭い、40頃のオヤジを誰が鬼殺しだと思うだろうか。
「
八重と呼ばれた団子屋の看板娘はため息を吐いた。歳はまだ20になっていないらしい、若い子だった。
「はいはい、分かったよ。どれぐらいかかるんだい?」
「2、3日ぐらいかな。それで、佐助と言ったか。その娘の名前は?」
「ひな子って言います」
「おし、ひな子、お兄さんと佐助はちょっと留守にする。その間は八重の言うことよーく、聞くんだぞ?」
「うん、分かった!おじさん!」
「おにーさんと言え。よし、いくぞ佐助」
「わかりました」
こうして鬼退治が始まった。
鬼山 四志・零御・フォーファウンド @lalvandad123
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