第20話 私の盗まれた影はどこにある?
家に帰る気も起こらないまま、ぼくはあてもなく街中をさまよっていた。
盛り場をふらついていたら客引きに何度か
何となく酔いたくなり、適当な自販機でビールを買うと、
その場所で
ぼくはほとんど無意識のうちに立ち上がり、本を取り上げた人物の顔を
それからどこをどう歩いたのか記憶にない。気がつくと痛みだらけの体をひきずりながら、ぼくは家の近くの公園まで這うように歩いていた。
街灯に
それから何時間ほどその場所にいただろうか。もしかするとほんの数分だったかも知れない。何となく公園の外れの方に視線を向けると、人影がひとつ、こちらを向いたままじっと立っていることに気付いた。それは少しずつぼくの方に歩み寄る。街灯に照らされ、その
その人物は幼い少年のような
「大切なものを盗まれてしまったんだけど、お兄さん知らない?」
ぼくはしばらくのあいだ、その質問が自分に向けられたものだと気付かなかった。ニ、三度同じ質問が繰り返され、ようやくぼくは返答する。
「大切なもの……お兄さんも盗まれたような気がする」
「お兄さんのことは訊いてないよ。あくまで私のことだから」
「君が何を盗まれたのか、ぼくが知るわけないだろう。人に質問をする時は、その質問に具体性を持たせるべきだ」
少年はそれもそうだと言うように、含み笑いをする。
「じゃあ質問に具体性を持たせるね。お兄さん、私の盗まれた『影』がどこにあるのか知らない?」
「……影?」
ぼくは
「君は……獣人か。影を盗まれたって……、どういうことだ?」
「言葉どおりのことだよ。この街灯の明るさならわかるでしょう。百聞は一見に如かず、どうぞご覧あれ」
そう言って少年は街灯の下に身をひるがえした。街灯に照らされたけもみみと金色の尻尾がきらりと反射した。少年の足元に、彼の影はなかった。
ぼくは信じられないものを見る心持ちで、その影のない狐少年をまじまじと眺めた。そして、彼はこんな質問もしたのだった。
「そういえばお兄さん、私と同じ獣人のハンナって女の子を知らない? 多分この辺にいると思ったんだけど、匂いが途切れてしまってわからないんだ」
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