第18話 不吉な沈黙のように閉ざされた扉
桔梗さんの話は続く。ぼくは沈黙を守りながらその話を聞いている。
「病院で治療を受けた妻が個室のベッドで休んでいる間、ようやく泣き止んだ若手の男性調査員が、悲痛な面持ちで『私が班長を殺してしまった』と告白しました。彼の言い分はこうです。
『廃墟の調査をひと通り終えてから外に出ると、突然班長が叫び出した。どうしたのかと近寄ると、ものも言わずいきなり殴り飛ばされた。その場に尻餅をつき、呆然としていた。いつもは温和な表情の班長の目つきが異様に光っていて、怖くなった。体格の良い班長から身を守るために、自分はその辺にあった棒切れを拾った。じりじりと間合いを保っていると、そこに
しばらくして目を覚ました妻からも前後の事情を訊きました。彼女はまずその廃墟の調査を始めたところから話し始めました。
『廃墟の入口の辺りに
内部はコンクリートで造られており、薄暗くひんやりとしていた。想像していたより広かったが、何の目的で作られたのかははっきりしない個室がいくつもあった。例外なく
そのいくつかの個室のなかに、覗き窓のない部屋があった。入口のような場所には分厚い鉄製の扉が不吉な沈黙のように行く手を
班長や他の班員が点検したが、どうやっても開かない。次に来る時は爆薬か何かを持って来ることにしようということになった。それ以外には、内部に取り立てて変わったところはなかった。
それから起こったことは調査員の彼の言う通りだと思う。私は班長に殴られてから気絶していたので、その後のことはわからないけど。ただ一つだけ、気絶する前に気付いたことがあった。もしかしたら見間違いかもしれないし自分でも馬鹿馬鹿しいと思うけど確認してほしい。ちらっと見ただけだけど、……班長の影が二つになっていた』
妻がそのように言いましたので、私も半信半疑ながら班長の遺体を確認させてもらいました。すると、彼の影が確かに二つあることがわかったのです。
そして翌日、調査員の男性と私の二人が発症しました。信じられないことに、私の影も二つになっていたのです。
私たちは
そしてある朝、私の病状は嘘のように収まりました。元通りの平熱に戻り、二つ目の影は消えていました。
それから私は久しぶりに妻に会いたくなり、そう要望しましたが、その時点で彼女はすでにこの世界からいなくなっていたようです。
私はしばらくしてから彼女の入っていた病室に通されました。そこに彼女の姿はなく、黒いシミのようなものだけが、ベッドの上に残されているばかりでした。
どういうわけだかわからず涙も出ませんでした。私はベッドの上に身を投げ、微かに残る妻の匂いを探り当てました。その時、手の中に違和感を感じ、見てみると私の手がその黒いシミのようなものを確かに掴んでいたのです。
私はこの時『影はがし』の
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