狐少女はスマホを手に入れた
第13話 冗談にしてはやり過ぎないたずら
冷や麦とスーパーのコロッケというごく簡単な夕食を済ませると、ぼくのスマホにLINEの着信が届いた。さゆり姉だ。
さゆり姉「ハンナちゃん用のスマホを買ったからうちに取りに来て」
ぼくは暗号を解読する人のような
ぼくは皿洗いを終えたハンナに訊ねると、確かにそういう話はあったらしい。
「『すまほ』が何なのかよくわからないけど、あると便利だしあなたといつでも連絡が取れるとさゆりさんから聞いたので
そういえばさゆり姉もスマホの設定はぼくに丸投げだったことを思い出す……。
さゆり姉の入居している部屋は、ぼくの住んでいるマンションの二階分上にある。ぼくは部屋着のままサンダルを履いてマンションの階段を二階分登る。日は暮れても外気は蒸し暑く、少し歩くだけで汗ばんでくる。
ぼくはさゆり姉の部屋の入り口に立ち、インターホンを何度か鳴らしたが、なかなか彼女は出て来ようとしない。トイレにでも入っているのだろうか。何となくドアノブを回すと、どうやら鍵は掛かっていないらしい。部屋の内部は電気の点いている様子はないが、エアコンの冷気が異様に強い。
「さゆり姉ー、いらっしゃいますかー?」
と部屋の暗がりに呼びかけてみる。彼女の返答はない。ひとまず玄関の照明を灯してから部屋の中に入る。サンダルを脱いで裸足で冷え冷えとする廊下を進むと、キッチンの辺りに誰かの気配がした。
「さゆり姉……なの?」
気配にそう呼びかけるが、またしても返答はない。そのかわりに、気配が少しずつぼくの方ににじり寄ってくる。ぼくは何となく異常なものを感じて、キッチンの電気スイッチを手探りで探そうとしたが、その前に「気配」の方がぼくの手を捕えたようだった。
「……うふふ、つーかまえたぁ」
紛れもなくさゆり姉の声だと思った。
「さゆり姉? 何をしてるの? っんむ!」
急に柔らかいものがぼくの唇をふさいだ。気がつくとぼくは、壁に背中を
「ちょ、……ぷは。……さゆり姉? 冗談にしてはやり過ぎだと……、あふ!」
二つの大きな膨らみがぼくの胸に圧し付けられる。さゆり姉はまだ行為を止めようとしない。
「ん……、何も考えなくていいのよ。全部私に任せなさい。あなたのしたいようにしていいのよ、ほら、もっと……」
ぼくの耳元でそうつぶやく彼女の声が、異様に
ぼくはされるがままになりながら半ば放心していたが、少しずつ心を取り戻そうと努力する。事態を冷静に認識しようとする。状況があまりに非現実的であることを認め始める。そして、ぼくはぼくの体をまさぐっているこの人物がさゆり姉でないことを直感する。
ぼくはその人物の体を力ずくで引きはがそうとしたが、バランスが崩れて彼女を床に押し倒す形になる。その時かすかに「この世のものではない」手触りを感じる。
彼女の手首を床に押さえつけながら、ぼくはこう問う。
「あなたは……誰だ?」
彼女の静かに笑う声だけが闇の中から聞こえた。押さえつけた体に抵抗はなかった。
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