第2話 早朝の公園で食べるトマト味のリゾット
翌日。
公園の木の根元で寝袋にくるまって横たわっていると、顔に生温かい空気を感じて目が覚めた。昨日のけもみみ少女が顔のすぐそばで匂いを嗅いでいるらしい。
「……(クンクン)」
「……」
何となく寝たふりを続けることにした。
至近距離に顔を近づけるものだから、獣の濡れたような匂いと一緒に、甘ったるいミルクのような匂いが
いろいろガマンできなかったので、ちょっと叫んでみた。
「ラブアンドピィィィイィイィッス!!」
「にょわ!?」
また逃げられた。当たり前か。
反省を踏まえて、ちょっとフランク寄りにしてみることにした。
「悪い悪い、起きるときは目覚まし代わりに大声を出す習慣なんだ。驚かせたなら謝る」
「……」
白々しかったかな。
〇
寝袋の表面の夜露を軽く拭ってから、食事の間だけ適当な枝に掛けておく。以前父親のを使ってから放置していたらカビが生えてしまったので、こっぴどく叱られたことがある。それ以来、最低限の手入れは欠かさないようにしているのだ。
簡易用のコンロで火を起こし、携帯食を温める。トマト味のリゾットだ。次第に香ばしい匂いが早朝の公園に漂い始めた。空腹を一層刺激する。
最初のひと匙に口をつけようとしたところ、今朝のけもみみ少女がまた瓦礫越しにこちらを覗いているのに気付いた。目が合うとサッと顔を隠すが、頭頂部のけもみみだけは隠せていない。
ふと思った。獣人もリゾットを食べるのだろうか?
「……良かったらまだ沢山あるから……食べる?」
「……」
少女は言葉を発さないが、目に見えてけもみみと尻尾がパタパタと振るい始めた。それを肯定と受け取って、平たい皿に半分リゾットを移し換える。瓦礫の手前に置いておけばいいだろう。
じわじわと姿を現し始めた少女が、リゾットの前で困惑したように硬直していた。
「リゾットが冷めるけど、食べないのか?」
「……」
どうしたのだろうかと訝しく思ってると、
「……匙」
と、低く呟くのが聞こえた。聞き間違いでなければ、たしかに「匙」と聞こえた。最近の獣人はテーブルマナーを心得てるのだろうかと意外に思いつつ、リュックのポケットから余分の匙を取り出し、彼女に手渡した。今度は逃げなかった。
〇
そんな風にして、二〇二〇年の春にぼくらは出会い、友達になった。
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