世界の真理を超えて
俺はこの力を手に入れて以来、だんだんと面倒はやらなくなっていった。
身体を洗ったり、歯を磨いたりなんかしない。そんなことしなくても常に清潔な状態にしておけばいい。
痒いところを掻くのも面倒だから、どこも痒くならないようにしておく。
暑さや寒さも邪魔だ。
どこにいても、俺の周りだけは快適な温度にしておく。
移動は、ほとんど瞬間移動だ。
たとえすぐそこでも歩く必要はない。
気が向いた時に飛んだりするくらいだ。
栄養摂取の必要はないが、食事は楽しみの一つだった。
なにせ限界がないから、ずっと食べていられる。世界中の美味珍味をこれでもかと言うほど食い尽くした。空想上の食べ物も味わい尽くした。
当然、マナーなんかあったもんじゃない。いちいちスプーンやフォークを使うのも面倒だ。
そのうち噛むのも面倒になってきた。
そもそも、空腹がないから飯を食う時は、わざわざ腹を減らかさなければならない。
それが面倒で徐々に食事もしなくなった。
やることがどんどんなくなっていく。
気がつけば、俺は暇つぶしに何をするかばかり考えるようになっていた。
神に寿命はない。
時間は無限にある。
ついには、考えるのも面倒になってきた。
だから何も考えず、ただ快楽に浸る時間が増えた。
この段階へ至っては、もう人間の身体は必要なかった。
眼球がなくても全方位が同時に見渡せる。
足がなくても移動できる。
手がなくても作業できる。
脳がなくても快楽は味わえる。
俺は精神体となって何もない真っ白な空間を漂った。
もう地球はない。
宇宙もない。
地球以外にも生命が存在する惑星が無数にあったので、宇宙ごと消した。
すべての争いは終わった。
すべての生命は、苦痛も恐怖もなく一瞬で消えた。
残ったのは俺の精神だけ。
孤独感はない。
そんなものはとっくに消した。
だが、精神がある限り、苦痛は完全にはなくならない。
暇だ。
暇過ぎる。
もちろん、精神を残したまま苦痛を消し去ることだってできる。
しかし、それをやった奴がどうなるかを俺は知っている。
他者の苦痛を想像しない無慈悲な神。
あいつと同じだ。
それだけは嫌だ。
ではどうする?
また何も考えず、ひたすら快楽に浸るか?
それも悪くはない。
というか、それしかない。
全知全能ってのはこんなものか。
何でもできるせいで、何もしなくてよくなる。
結果、何もやることがなくなる。
…そうか。
やることがないから、わざわざ問題を起こして、それを解決していく。
地球が欠陥だらけなのは、そういう理由だったのか。
それが世界の真理。
知ってしまえばどうということもなかった。
なにが創造神だよ。
お前がやってることは、早い話がただのマッチポンプだろうが。
阿呆らしい。
あいつの真似だけは絶対にしない。
何も考えず、永遠に飽きない快楽に浸っていればいい。
そうすれば、暇つぶしのために苦痛を生むなんて馬鹿なことをする必要もない。
もうゴチャゴチャ考えるのも飽きた。
精神はいらない。
それで、すべての苦痛は消滅する。
もう苦痛という言葉も必要ない。
すべて解決。
俺は永遠に幸せ。
ずっと、幸せ……
全知全能の力を得たチンピラがやりたい放題やった末に神をも超える境地へと至る話 ンヲン・ルー @hitotu
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