すべての争いを終わらせるには?


俺は傲慢な軍事大国に鉄槌を下すため宇宙に昇った。もちろん、生身のままで。


地球全体が視界に収まるところまで行き、直径が1km以上もある巨大レーザー砲を出現させる。

そして、青く輝く惑星を悠然と見下ろしながらつぶやく。


人類よ。

お前たちは調子に乗り過ぎた。

よって、ここに神の鉄槌を下す。

己の愚かさを思い知れ!


なぁんてな。


合図と共に、長大な光の束が地球へと向かう。

目標は総司令部がある軍基地だ。レーザーが直撃すれば、基地は跡形もなく消滅する。ただし、人間以外の生物には一切の被害が出ないよう設定した。


人間と、人間が作った物だけが綺麗さっぱり消える。

善も悪も無差別に破壊する自然災害とは違う。これこそが神の鉄槌だ。


ざまあみろ。


俺は愉悦に浸りながら、レーザーを次々と放つ。

世界最大の軍事大国からすべての軍事施設が消えるまで、そう時間はかからなかった。


当然、こんなことをすれば世界第二位の軍事大国が幅を利かせるようになる。

よって二位の軍事施設も破壊した。三位も四位も破壊した。それ以下もすべて。

最後の方は面倒になってきたから、レーザー100個作って一斉射撃した。


虚しいな。

当たり前か。

軍事施設を破壊したからって、人間が変わるか?


変わるはずがない。

包丁でも石でも使って、人は争いを続けるだろう。そして勝った奴が負けた奴を支配する。その構図には何の変わりもない。昔からそうだったんだから。


武器や兵器の問題じゃない。

人間そのものが争いの種なんだ。


こうなるともう、争いを失くすには人類を滅ぼすしかなくなってくる。


いや、それも違う。

争ってるのは人類だけじゃない。

生き物すべてだ。


地球では、みんなみんな食い合って殺し合ってるんだ。

地球全体が戦場なのだ。


地球はそのように作られている。

前の神がそのように作った。


ただ暇つぶしのために。


ここまでしても何も変わらない地球を見て、俺は気付いた。

全知全能の力を持つ俺が、前の神が作った基準で一喜一憂するなんて馬鹿げてる。

あいつはもういないんだ。

あいつが残した箱庭の管理なんて引き継ぐ必要はないんだ。


強者が弱者を食わなければ生きられない世界なんて、どう考えたって欠陥品だ。もう壊しちまってもいいんじゃないのか?


いや、でも、それじゃあ俺の恋人たちが…。俺の故郷も、家も、大好きな飯も、酒も…。


生身のまま宇宙空間に出ても肉体は平気だが、心は寒い。地球が恋しい。地球がなくなるなんて考えられない。


俺はまだ人間だ。

悲しいまでに、人間としての意識に支配されている。つまり前の神に支配されている。


嫌な記憶は全部消した。

苦痛も疲労もなく、睡眠も排泄も呼吸すらも必要としない身体になった。


それでもまだ、俺は人間としての価値観を捨てられずにいる。

それを気に入らないと思う一方で、今の価値観を失った俺は本当に俺なのかと不安を抱いている。


なんてこった。

俺の中でも二つの考えが争ってやがる。人間ってのはトコトン争いをするようにできてるんだな。


この世からすべての争いを失くそうと思ったら、まず俺の人間性を消さなきゃならないのか。


じゃあ人間性を失った俺は何になるんだ?

あいつと同じになるのは嫌だな。暇つぶしのために世界を作って殺し合いをさせるなんて、趣味が悪いにも程がある。


だいたい、何でもできるってんなら一人で暇つぶしだってできるだろうが。要は永遠に飽きずに楽しめることをやればいいんだろ。


やってやんよ。

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