リア:ハピネス
佐々木実桜
フローラルは似合わない。
「あんためっちゃええ匂いするやん」
「そうか?なんもつけてへんけど、」
「そうなん?ほんなら、柔軟剤かな?花の香り」
「あー、母ちゃんがなんか気に入ってたな」
「そうなんや、どこのやつなん?」
「んーとなぁ、、___」
もうずいぶん前のこと。
学生時代にたった数ヶ月、付き合っただけの男の子。
面倒くさがりで、少し抜けてる子。
些細なことで喧嘩して別れてしまったけどきっとあのまま続いていても幸せにはなれなかった、お互いに。
数年経った今でも、思い出してしまう。
人混みの中、同じ柔軟剤の匂いを感じるとどうしても。
そして雲に覆われた夜空の下、涙が出そうになる。
あの頃の私は、きっといい彼女じゃなかった。
面倒で、つまらない女だったと思う。
だけど、あの頃の私が、一番可愛かった。
純粋で、幸せを噛み締めていた。
だから、荒んでしまった今、思い出す。
あの頃の私と、あの頃側に居た貴方の香りを。
よりを戻したいなんてことはありえない。
きっと今戻れたとしても長続きなんてできないし。
違うんだ。
あの頃の私に戻って、あの頃の貴方と恋をしたいだけ。
こんなに汚れてしまった自分を捨て去って、大人になんてならなくて、ただずっと笑っていたい。
早く大人になりたいって言っていたあの頃に戻って、ただ馬鹿なことをやっていたい。
深夜2時半、涙で崩れたメイクを落として、眉毛だけを描いて、ルームウェアのまま外に出る。
手には財布と家の鍵と、バッテリー不足を訴えるスマートフォン。
雲が消える様子はなく、星なんて全く見えない空。
24時間営業は崩れた生活習慣をする者の味方だと思いながら、自動ドアを通り抜ける。
気怠げな店員を横目に、アルコール分3%のお酒とつまみを手にする。
レジに向かうと見えたそれも、ついでに。
「あ、あれや!リアやリア!リアハピネス!」
「え、リア?そんなんあったっけ?」
「あるやん!めっちゃCMやってるやん!」
「え、リアとか知らんで?」
「絶対知ってる!!!可愛らしい女優がよう出てるやつ!」
「リア…リア…あ!いやまさか…」
「思い出した?あるやろ!!」
「ちゃうやん、あんたがいうてるん多分…」
「ん?リアやろ?フローラルとかいうてるやつ」
「まじか、ガチで間違えとる」
「え?」
「あんたが言うてんの、これやろ?」
「そうそれ!リア!」
「ちゃうちゃう、」
半分以上も残ってる柔軟剤。
大丈夫だ、ただの予備。
腐るわけじゃあるまいし。
(あんたが言うてたんリアやなくてレノアや、アホ)
リア:ハピネス 佐々木実桜 @mioh_0123
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★0 エッセイ・ノンフィクション 完結済 2話
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