第6話

「リアちゃん、お邪魔しまーす!」マキちゃんは、5時の10分も前に、リアちゃんの部屋にやってきました。

「どうぞ、どうぞ」リアちゃんはそう言って、マキちゃんを部屋に招き入れました。

「じゃあ、さっそく、フィリピンの青い空と海の絵を描いて。なるべくそこにいるような気持ちで、描いてみて」

「うん、その前に、フィリピンの写真があると良いな。その方がイメージがふくらむと思うから。インターネットで調べてみよう」

そう言って、リアちゃんはパソコンでフィリピンの写真を調べ始めました。

「きれいー!海の青と、空の青がつながってるよ」

「本当だ。カヤックもできるんだね。気持ちよさそうー!」

二人は、すっかりフィリピンに旅行に行っている気分です。時間を忘れて、フィリピンのビーチの様々な写真を見ては、感想を言いあいました。

「よし、そろそろ絵を描いてみよう」

イメージが十分に広がったところで、どちらともなく、いよいよ絵を描こうという話になりました。

リアちゃんは、ブルーのクレヨンを取りだし、そっと色を塗っていきました。その上に、グリーンのクレヨンをうすーく重ねると、きれいなエメラルドグリーンの色がでました。

「さっきの海の写真の色とおんなじだっ」

マキちゃんが、興奮してそう言いました。続いて、ブルーのクレヨンを少し強めに塗っていきます。そこに、白のクレヨンを混ぜて、指で軽くなぞると、どこまでも続く常夏の空が出来上がりました。

「すごいなあ、やっぱりリアちゃんは絵がうまいなあ」

マキちゃんは、感心してそう言いました。

「ねえマキちゃん、こうゆうビーチは世界にたくさんあるでしょう?私、どうしてもフィリピンの海を描きたいの。そのために、あるものを描いて良い?」

リアちゃんは、おもしろそうにそう言うと、すっすと空白の部分に、なんとマナナンガルの絵を描きはじめました。これには、マキちゃんもびっくりです。

「えー、マナナンガルが本物になって出てきたら、どうするの」

「大丈夫だよ」リアちゃんは、マナナンガルというフィリピンの神話の生き物に会ってみたいのです。目がくりっとしたかわいらしいマナナンガルを描きました。

「よし、完成」エメラルドグリーンの海と、ライトブルーの空にそよぐやしの木、そこにマナナンガルが飛んでいます。さて、何が起こるでしょうか。二人が絵をじっと見つめていると、今回は金の粉が吹いたと同時に、絵が画用紙から消えていきました。金の粉はまばゆいばかりの光を放ったので、二人はまぶしくて、目をつぶってしまいました。そして、目を開けたときには----目の前に海が広がっていたのです。

それは、思ったより静かな海でした。寄せてはひく、波のざっぷーんという音が聞こえます。ヤシの木が、風に静かに揺れています。日差しは日本より強く、とても明るく力強いです。エメラルドグリーンの海水は透き通っていて、色とりどりの魚が泳いでいるのが見えます。リアちゃんは、こんなにきれいな海を見たことがありませんでした。

「魚!」とリアちゃんが思わず大きな声をあげました。

「泳いでる!」とマキちゃんもそれに続きます。

「ここは、もしかして……フィリピン?」

「そうみたい!ねえ、私たち、ほんとにフィリピンの海にきちゃったみたいだよ」

「飛行機に乗ってないのに海外に来ちゃうなんて、信じられない!リアちゃん、魔法のクレヨンはすごいねえ」マキちゃんは、そう言ってきゃっきゃと海の方へ近づいていきました。リアちゃんもそれに続きます。

二人で海水をかけあってふざけたり、魚を観察したり、かにをつかまえたりして遊びます。とても楽しい時間が流れていきました。

「あー、水着を持ってきたらよかったなあ。そうしたら、海で泳げたのに」

マキちゃんが残念そうに言います。

「少しだけ、海に入ってみようよ。足だけでも。きっと気持ちいいよ」リアちゃんが提案しました。

二人は、足を海に浸してみました。太陽の光を浴びた海水は、ほんのりと暖かく、まるで温水に足を浸しているようです。

「海水がぽかぽかしてるね」そう言って、リアちゃんはにっこりしました。

そんな風に時間を過ごしていると、しだいに頭上高くにあった太陽が、西へ移動しているのがわかりました。心なしか、夕方の空気が広がっています。

「リアちゃん、サンセットがとてもきれいだよ」

見ると、太陽が海に沈んでいくのが見えます。真っ赤な太陽が、海の表面を照らし出し、オレンジ色に染めています。二人は、深呼吸をして、その光景に見入っていました。

しばらくして、太陽が完全にしずむと、夜のとばりが降りてきました。周囲は、群青色の空と海に包まれ、星がミルキー・ウェイのように散りばめられて、手が届きそうなくらい、チカチカとまたたいています。とてもきれいな光景だったのですが、リアちゃんはだんだん心配になってきました。

「私たち、帰れるのかな?そろそろ帰らないとママたちが心配するんじゃないかな……」

「そうだね。でもどうやって帰るんだろう?」楽観的なマキちゃんですが、さすがに心配そうに周囲を見わたし、砂浜から腰を浮かせました。

「私が案内いたしますわ」

突然、頭上から、かわいらしく、高い声が聞こえてきました。顔をあげると、そこにいたのは、なんとマナナンガルでした。







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

魔法のクレヨン 高橋レイナ @reina_tkhs

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る