第4話
HRが終わり、彼女が真っ先に僕の席へと走ってくる。
僕は諦めて彼女に従うことにしたので、どうやら遊びに行かなくてはならないらしい。
「蒼良くん、遊びに行くよ!」
元気を持て余したのか、楽しそうに言う彼女。
あまり大声を出されて注目されると僕が困るというのに。
「ああ、いいよ。どこに行くんだい?」
僕は諦めて言った。
「やけに従順だね。まぁいいや、吉祥寺に行こう!」
ほんとうに楽しそうに彼女は言う。
今日だけ、少しだけ、彼女に流されてもいいかもしれない。
そう思ってしまった。
「吉祥寺で何をする予定?場合によっては僕は手持ちが足りなくなる」
少しの不安要素を彼女に尋ねてみる。
「そうだねぇ、とりあえずゲーセン行こ」
彼女の口から出たのは彼女のイメージには合わない場所だった。
ゲームセンターに行くなんて数年ぶりだ。
「ゲームセンターなんて行っても、君は何をするんだい?」
僕の中のゲームセンターのイメージは煙草の匂いが充満する仄暗い空間なのだが、そこに彼女は似つかわしくないような気がする。
「私、こう見えてけっこう上手いんだからね?」
ゲームセンターに着くやいなや彼女はそう言ってクレーンゲームの景品をチェックしはじめた。
プレイを始めると、なれた手付きで次々とクレーンゲームを攻略していく。
僕も少しやってみたが、彼女の腕前を見て戦意喪失した。
「どうしたらそんなに上手くなるのかい?」
そう僕が問うと彼女は得意げに
「蒼良くんはつかもうとし過ぎなんだよ。もっと柔軟に考えないと」
と言った。
それから二時間ほど遊び倒して疲れた僕たちは帰路につくことにした。
「今日はとうだった?蒼良くん」
電車の中で満面の笑みを浮かべて彼女は言った。
「そうだね、まあまあかな」
僕がそう答えると
「私は楽しかったよ。また二人で行こうよ」
と彼女は言った。
もう彼女の中では僕は都合のいい遊び相手として認識されているのだろう。
家に帰って、洗面所で手を洗うとき、鏡に映った何年ぶりかわからない笑顔の僕の顔が目に入った。
なんだかんだ楽しんでいる僕がいることに気づいて、僕は少しだけ僕のことを好きになれた気がした。
愛逢月の空 涼暮有人 @sky_February
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