第8話 愛に満ちた今の世だから君に会えた。

 大きなコブみたいに凸凹と岩肌が回廊を起伏に富む路としている。

 本当は何処でも良いからゆっくり会話したい。


 でも少女は先を進む進む。


 突然少女が立ち止まり振り向く。


 そして真剣な眼差しを僕に向けて訴えるような口調で話し始める。


「ここは島のヒロインの碑なのよ」

「大きくて力強い女性」

「この島のみんなを導いた指導者」

「今の世の中って女性の活躍の場がない、あれもないこれもない、地位もない」

「ないないばかりを理由に口だけ主張が多いけど彼女は男にも負けない人間とし

 ての力を発揮してヒロインとなった」

「行動なく口だけはうんざり」

「偽善者、自己中」

「本当の優しさなんて男にも女にも消えて無くなったお伽話」


「そんなそんな世に失望して君の心は生きるのを止めたね!」

「溢れるほどの優しい風を持っているのにどうして」

「小鳥たちはそれが分かるから集まるの」

「私だってその風を感じてココに来たの」


 いきなりの怒涛の攻め句に呆然《ぼうぜん》としない僕が居た。


 もう諦めているんだ。


 心を許せる人に出会わない今の世。


 だから今瞬間まで感じていた恋の気持ち。


 恋は動かないその瞬間の熱情。

 無意識に広がる本能のシンパシー。

 恋の瞬間は時間を超えてもあの瞬間として蘇る。

 淡く消え入るけど何時迄も憧れが持続する。


 愛という言葉は嫌い。

 愛は利己的で醜く押し付け。

 お淑やかな日本人には合わない。

 でも声高に拡声される。

 愛は傷つけ奪い命を奪う。


 愛に満たされた空気で呼吸したくない。


 だから離島に付いてきた。


 そう気づかなかったけど僕は生きるのを止めていた。


「だから来たの」


「どうしてこの島に来たの?」


 何かが頭の中でチカチカする。

 フラッシュバックの様に記憶の扉の向こうに何かが見える。


 この場所で私は君の骸を見つけた。

 そして君の元に命を投げたの。

 何度も何度も輪廻するけど会えなかった。


 でも会えた。

 愛に満ち溢れた今の世のおかげで君は深呼吸しにこの島に来てくれたの!


 ざわ〜と豪風が吹き抜ける。


 ティンダバナ回廊の一番端の崖の突端の岩はアヤミハビルの姿に穴が開いて

 いる。

 穴を潜り抜けるとその先は遠く青い海原が横たわる。


 その穴を風に先導されてアヤミハビルの大群が最西端の夕陽に向かって飛んで

 行く。


~〇~


ヨナグニサン、モスラのモデルとなったと言われる。

与那国方言ではアヤミハビルと呼ばれる。

地母神としても崇められる心の底に眠る生命の象徴。


※伝説の犬に揶揄されていた僕はこの島の不可思議な力で輪廻転生を繰り返し愛

 に満ち溢れた今の世で

 やっとやっと、出逢えたんだ。



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アヤミハビルに恋をして ふぁーぷる @s_araking

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