蘭瑯の蛟
安良巻祐介
「蘭瑯の蛟」という霊物が、うちの蔵にある。
明治の頃の舶来ものだというが、言い伝えに過ぎないので真偽のほどは定かでない。
陶器製らしい箱に収められたそれは、鈍い青紫に光る、とぐろを巻いた金属の蛇で、錆どころか曇りすら見られないから、これが本当に明治の代物なら、確かに何かしらの神秘を纏うているのだろうと思わされる。
逆に言えば、明治からあるというほどの時代をそれからは感じない。意匠や作りにぱっと見てわかる特別な細工や仕掛けもなさそうだし、最近作られたありふれた蛇の置物にも見える。
見る人が見れば、近年にねつ造された胡散臭い品だと一目でわかるのかもしれないから、私たち家族が見る目のない素人であること、そして、あえて真偽を探ったり由来を調べたり鑑定をしたりするほどの熱情を持ち合わせない事、それが逆説的に、蛟の霊威に寄与していると言えるかもしれない。
いずれにせよ、私たちは皆してのんきだから、箱に収まった青紫の蛇はこの先、我が家が続く限りは、蔵の奥で霊物として在り続けるだろう。
私たちは面倒くさがりな一方で、決められた物事を偏執的になぞり続ける一面もあるから、誰かにはっきりと蛟の真贋を暴かれでもしない限りは、その霊力を信じ、係累の不滅を信じて邁進してゆける。
由来も曖昧な舶来の蛟は、確かに私たちの守護神である。
蘭瑯の蛟 安良巻祐介 @aramaki88
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