第58話:隠れ里
外へ出ると、強い日差しがリオンの目をくらました。セイラもあとに続いて、まぶしそうに手をかざす。
距離をあけて、小屋が点在している。畑仕事に精を出す人影も何人か見られた。
畑の他にも、草原や森に、湖までもが、この盆地の中に広がっている。広大な土地だ。
青々とした畑が続くが、しばらくあぜ道を歩いていると、金色の絨毯が広がるような、太陽を浴びて輝く一帯があらわれた。
麦畑が広がっている。春も終わりが近づき、もう収穫の季節だろうか。金色の穂が一面に実っている。
その中に、金色が剥げ、土があらわになった一帯があった。その中に、中年の男女の姿が見えた。鎌を手に持ち穂を刈っている。
二人の足元には、刈り取られた麦が束になって積まれている。側には大きな籠も見えるが、そちらはまだ空だった。
体を反って、腰を休めた男が、リオンたちに気づく。
「やあ、マナが言っていた人たちだね」
にこやかに中年の男がリオンたちに近づく。
「あの」
リオンは戸惑い、情けなく呟いただけだった。
「帝国軍に追われてたんだろう。あいつら、どうしてだか、最近は山の深いところまで襲いに来る」
男は、まさかリオンが、その襲う側だったとは夢にも思っていないらしい。
「そうですね。その範囲も回数も、増えている……」
リオンは頷く。
それについてはリオン自身が、最もよく分かっていた。近年、山岳に住む人の数が、明らかに減ってきていた。そのため、黒影の旅団は、こどもたちを探して山の奥へ奥へと、活動の範囲を広げていったのだ。
「先祖代々の地を捨てて、隠れ里に逃げ込んで来る人も、増えている。こどもだけでも、ってことでここに預ける人もな。まあ、イルマ山岳に住む人でも、この場所のことを知る人は多くはないから、それでも危険な土地に住み続ける人も多いんだが」
「全員、ここで保護しようとか、そういう動きはないんですか?」
セイラが男にたずねる。
「ここがいくら広いといっても、山岳の民をみんな入れてしまったら、立ち行かなくなるからな。それにここに人々が集中すると、いずれ帝国もここを見つけるだろう。やつら、どういうわけか、私たちを狩ることに執着しているかな」
忌々しそうに男は言う。
しかしそれは、山に住む人々を、ある意味この隠れ里を守るための盾にしているのではないか。そういった考えがリオンの頭をよぎるが、もちろん口には出せない。
先祖代々の地、という言葉も男の口から出た。危険だとしてもそこを離れたがらない人もいるのだろう。きっと、彼らには、彼らなりの歴史があるはずだった。
こどもだけでもここに保護できればいいが、しかしそれも危険だ。男の推測は正しい。こどもを見つけられなくなった帝国軍は、血眼になって、さらに山岳の奥地へと足を踏み入れるだろう。
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