第6話:北方の任務

 リオンは、セイラの能力を信用していた。実際、セイラは秀才だった。二十を少し過ぎた歳で、旅団軍師に任じられている。通常、新兵は十八歳から入団してくる。そこからまた十年以上かけて腕を磨いていくのだ。リオンもそうだが、それ以上にセイラは異例の早さで出世していた。


 もっとも、セイラの場合はリオンたち通常のタリル旅団兵とは、生い立ちからして違っていた。武芸に優れたものは軍の中にはいくらでもいて、その意味ではセイラの軍師としての能力は他と比べ難い貴重なものだった。


「今日はこのままここで夜営を続ける。日が出たら出立だ。皆にもそう伝えてくれ」

 リオンはそう言い残すと、陣に設けられた天幕へと入っていった。


 セイラは伝令として駆け回り、その後こどもたちを連れた兵も合流すると、夜警を残してみな眠りについた。


 翌朝、黒影の旅団は馬を駆って南下をはじめた。ここイルマ山岳地帯は、帝都の北方に位置していた。


 彼らの暮らすキルジス帝国は、イスタニア大陸の最西域に広がっている。西方は海に、北方はイルマ山岳地帯に囲まれている。東方と南方は、いくつかの国に面していて、国境を争い、小競り合いを続けていた。


 キルジス帝国は数十万の兵力を擁していて、その力は強大だった。しかし皇帝の指示する、強硬な国境拡大方針が影響して、敵国も多かった。多くの兵は、帝都と国境の守りに割かれていて、数十万でも兵力が足りているとはいえなかった。


 八あるタリル旅団は、少数精鋭だ。一つの旅団は千の兵しか抱えていない。全て合わせても八千の兵力にしかならない。


 それでも、一騎で十もの敵兵を同時に相手にしてのける猛者の集まりだ。その戦力は貴重で、どの旅団も、帝国中を駆け回り、様々な任務をこなしていた。


 イルマ山岳地帯での任務は、敬遠されている。兵士は、武器を持った敵と正面から戦いたがる。逃げる賊徒を斬って捨てるこの任務は、名誉ある戦ではなく虐殺だとみなされていて、どの団も進んでこの任にはつきたがらなかった。


 そこで目をつけられたのが黒影の旅団だった。リオンは軍人として、職務の遂行を第一と考える。命じられれば、女だろうと老人だろうと殲滅してみせた。


 そうしている内に、イルマ山岳地帯での任務のほとんどは、次第にこの黒影の旅団が請け負うようになっていた。


 何よりリオンは、こどもたちを救うこの戦いは、幾万の敵を葬るよりも崇高な行いだと信じていた。たとえ他の団に影で虐殺者よばわりされようと、市民から忌み嫌われようと、誇りを失うことはなかった。

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