第7話:帝都への帰還

 黒影の旅団は南下を続け、数日の後にキルジス帝国の帝都、カルディアへと帰還した。この巨大な城郭都市は、帝国の要だった。広い平野の中にある都市で、少し離れた高台から全容を見てとることができる。


 長い年月をかけて拡張を続けられた都市で、何層もの石造りの城壁が、間隔を空けて年輪のように重なっていた。中でも抜き出て高い城壁が外壁となっていて、現在はそれ以上の拡張の動きはなかった。


 昼間であったため、城壁は開かれていた。多くの人々が行き交っている。荷馬車を連れた商人や、剣を帯びた旅人は、警備の兵に呼び止められ、検問を受けていた。


 リオンたち黒影の旅団が近づくと、警備の兵が人々の流れを押しとどめて、旅団が通れるよう道をあけた。黒影の旅団を知らぬ者はこの帝都にはいない。リオンの顔と、黒塗りの鎧の集団を見て、警備兵が行く手を妨げられるはずもなかった。


 騎乗したまま黒影の旅団は帝都へと入っていく。道の両脇から、市民がその姿を見守っていた。あからさまに忌々しげな表情をしている者たちもいた。


 通常、タリル旅団は市民から人気であることが多い。しかし第五タリル旅団であるこの黒影の旅団は、不吉の象徴として嫌われていた。


 団色がこの国で不吉をあらわす黒であることも大きいが、それ以上に黒影の旅団の残忍さが国中で知られていることの結果がこれだった。


「あいかわらず嫌われていますね」

 リオンに馬を並べて進むセイラが、落ち込んだ声で言う。


「たまには市民に手を振って、愛想笑いでも振りまいてみたらどうですか?」

 セイラは恨み節をリオンにぶつける。


「軍が市民の人気取りをしても仕方がないだろう。そういうのは帝国議会に任せておけ。怖がられているくらいが、ちょうどいいんだ」

 既に慣れきっているリオンは事も無げに言った。


「市民のご機嫌を伺って、人気者になった旅団の末路を知っているだろう。あの、赤のやつらみたいにお前はなりたいのか?」


「私はあっちの方が好きですけどね」

 セイラは遠慮なしに言う。


「赤に異動するか? あの旅団は、市民に親しまれすぎて、大変なことになっているそうだぞ。何でも、ペット探しや護身術教室開催の依頼まで、旅団に届いているらしい」

 からかうように、リオンは言い返した。


「いいですね。赤の鎧も可愛いですし。猫ちゃんを探すのとか、楽しそうですね」

 嫌味が通じないのか、セイラは本当にそんな任務に明け暮れる日々を想像しているようで、楽しげに微笑んだ。


 そんな話を続けている内に、一行はカルディアの中心地、皇城へとたどり着いた。リオンとセイラの二人は馬を兵に預け、中へと入って行く。

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