第4話:奪うもの守るもの

 そう遠くないところに洞穴はあった。茂みの奥に小さく入り口があり、暗がりの中でここを見つけられたのは、旅団に運が味方したからだろう。一方で、非戦闘員を隠した賊徒たちにとっては、最悪の事態だったはずだ。


 洞穴の中では、兵に囲まれ、五十人ほどのこどもたちが身を寄せ合っていた。中には、まだ言葉もおぼつかなそうな、幼いこどももいる。


「お前、歳はいくつだ?」

 リオンは、最も大人びた少年にたずねた。少年は、うつむいて動かない。


「歳は、いくつだ?」

 重ねてたずねる。


「……九つ」

 少年は小さくポツリと呟いた。


「そうか、良かった」

 それで満足したのか、リオンはそれ以上、何かをたずねようとはしなかった。危害を加えられる事はないと察したのか、少年は安堵の息を吐く。


 表情には出さないが、少年以上に安堵しているのは、リオンの方だった。あと一つ、歳を多く答えられたら、この少年をリオンは切り捨てなければならなかった。十歳を超えた者を連れ帰る事は、許されていなかった。


「悪いようにはしないから付いて来い」

 こどもたちに声をかけ、リオンは洞穴を出ようとした。


「お母さんは?」

 少女の声が洞穴に響く。リオンが振り返ると、少女が不安げにリオンを見上げていた。


「……ここにはいない」

 リオンが答えると、少女は怪訝そうな顔をする。少女がまた何か言い募ろうとしたが、先ほど歳を答えた少年が、少女を抱き寄せて言葉を遮った。少年には、大人たちがどうなったのか、分かっているようだった。


 リオンは洞穴を出て、入り口で待機していた兵に声をかける。


「先にふもとに戻る。後からこどもたちを連れて来い。決して逃がすな。それに、傷つけるな」

 そう言い残すと、返事をして直立した兵を置いて、リオンは歩き出した。少しだけ、一人になりたかった。


 今回の急襲は軍人としての職務であり、相手は賊徒だった。相手が誰であれ、上から命じられれば、殺す事も自分の使命だ。


 軍人になりたての頃は、任務をこなすたびに自己嫌悪で眠れぬ日々を過ごした。だがそれから数年が経ち、二十半ばの歳になると、いつの間にか慣れている自分がいた。


 この歳で旅団長の地位を与えられたのも、兵士としての力量もあるが、それ以上に職務に忠実であったことが大きかったとリオンは思っている。組織に与えられた任務は、確実にこなしてきた。


 リオンも人を殺めることが好きなわけではない。ただ、軍人として生きてきただけだ。それ以外の生き方を知らなかった。奪った命以上に、守った命があるはずだと、信じていた。その想いだけが、今の軍人としてのリオンを支えている。

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