第3話:未来の仲間
捕虜を連れてきた兵の一人が、リオンに声をかける。
「脅威になるとは思えませんし、帝都に連れ帰って尋問しても良かったのではないですか」
まだ若い兵だった。どうやら、賊徒を殺さずに連れてきたのも、この若者の提案のようだった。この山岳での任務に参加するのははじめての若者だった。熟練の兵であれば、既に下っている軍令に背くような真似はしないだろう。
「賊徒を相手に、尋問なんてできるわけがない。これまでの講義で習ってきたはずだ。お前も分かっているだろう」
リオンは若者を優しく諭した。
山岳の賊徒は妖術に通じるという。その言葉は人を惑わせ、判断を鈍らせる。
日々、賊徒の相手をする、このタリル旅団に属する兵は、皆そう教わって育った。
リオンが老爺の言葉をろくに聞こうともせず、処刑を命じたのも、そういった理由からだった。ひ弱な老人だと甘く見て隙を見せると、どうなるか分かったものではない。
若者も頭では分かっているのだろう。ただ、武器も持たない弱者を殺める事への抵抗感に、抗えなかったようだ。
「今回は許す。だが、次はないぞ。これも職務のひとつだ。どのようなことであっても軍令違反を見過ごすわけにはいかない」
リオンは若者の目を見据える。若者は、少しの間を取って、小さく頷いた。
「それで、こどもたちはどうだ?」
「はい、先ほどの捕虜と同じ洞穴に隠れていました。こちらまで連れてくる訳にも行かず、班を一つ残して見張らせています」
リオンがたずねると、今度は別の熟練の兵が答えた。おそらく捕虜がすぐに殺されることを理解していたのだろう。あえてこどもたちを連れて来ずに、大人の捕虜を離したのは、この兵の配慮だった。
「まさか、傷つけたりしていないだろうな? 賊徒を殺しもせずに捕獲しておきながら、こどもたちの方に怪我を負わせていたら、許されないぞ」
「大丈夫です。母親と引き離された子らは、大層に暴れておりましたが、いまはただ怯えているようです」
兵は頷いた。
「母親、ね。そのうちの何人が本当の親なのやら」
リオンは表情を歪める。
何も知らぬこどもたちにとっては、今はまだ育ての親こそが、唯一の親だろう。
こどもたちのこれからの行く末を思い、リオンは深くため息をついた。
「これがこどもたちのためだ。今は分からずとも、きっとすぐに理解する。俺たちのようにな」
穏やかにリオンが言い終えると、まわりの兵たちも強く頷いた。
「さあ、未来の仲間を迎えに行こう」
号令とともに、旅団は、さらに山の奥へと踏み入っていった。
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