第2話:断末魔と静寂
しばらくすると続々と兵たちが集まってきた。どの兵の鎧も血濡れている。
今回、山に入ったのは、リオンが団長を務める第五旅団のごく一部の兵にすぎない。
山は深く険しい。賊徒はその中を移動しながら暮らしており、発見するのは容易ではなかった。そのため、偵察部隊から根城の情報を聞いたリオンは、賊徒が移動する前に、百人ほどの手勢を引き連れて急襲したのだった。
「団長、もうすぐ全員揃いそうです」
兵がリオンに声をかける。
「捕虜の扱いはどうしましょうか?」
続けて伺いを立ててきた兵に対し、リオンは眉をひそめた。団長の憤りを察知したのか、兵の顔色が変わる。
「捕虜、とは?」
「いえ、その、少し離れたところで、年寄りと女どもが洞穴に隠れていまして。捕まえて、いまこちらに連行してきているところです。武器も持っていなかったですし、既に観念しているのか反抗もしないため、団長の指示をあおごうかと」
兵は慌てて取り繕った。
「大人は皆殺し、との命令を既に下したはずだが?」
リオンは冷たく言い放つ。兵は何か言葉を探すように視線を泳がせたが、そのまま押し黙った。
その時、暗闇の向こうから、何かひそひそと不安げに話す声が聞こえてきた。声は徐々に近づいてきて、その集団が姿をあらわした。年寄りと女の賊徒と、それらを取り囲み連行してくる兵たちだった。
集団はリオンの手前でとまった。捕虜たちは、リオンの他より荘厳な鎧を見て、その人物こそが自分たちの命運を握る男だと気づいたらしい。捕虜たちの間に、にわかに緊張が走る。
「頼むから助けておくれ。ここにいるのは、逃げられず、戦いもできないような、弱い人だけさ」
捕虜の老爺が、意を決したように、リオンに向き合った。
リオンは集団に一瞥をくれる。それから何かを言おうと口を開きかけたが、またしても言葉を発したのは老爺の方だった。
「まさか…ナビア……ナビアなのか」
老爺の視線は、先ほどリオンが切り捨てた女の死体に向いていた。
「逃げたんじゃなかったのか。頼む、こっちを向いてくれ!」
老爺が悲痛な叫びをあげる。
「無駄だ、もう死んでいる。だが安心しろ。お前らもすぐに後を追えるさ。これ以上、お前らと話すわけにもいかないのでな」
突き放すように言い終えると、リオンはまわりの兵に号令した。
「……斬れ」
次の瞬間、それぞれの人々の思惑が入り混じり、騒然とする。捕虜の女たちは慌てて逃げ出そうとし、年寄りたちは口々に必死で命乞いをした。
だが兵たちは次々と剣をふるい、いくつもの断末魔の叫びがこだまする。そしてあたりに静寂が戻った。
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