結う

よる

No.1

母は私の髪を結うのが好きだった。

くしを使って丁寧に髪を整え、少しきつくゴムを巻く。

痛いということは言い出せずにいたが、その痛みさえも、愛せた。


その髪が私にはもうない。かれこれ六年ほどだろうか。突然のことだった。

だんだんと抜けていく髪に、病気になったばかりの私は何も感情を抱いていなかった。何故かなんて理解はできていなかったし、自分がなんていう病気なのかすらもわからなかった。学校の鏡の前で髪を結びなおしていた。その場面を隣の席の女の子に見られてしまった。その子は驚いた顔をして、足早に去っていった。


「ああ、私は普通じゃないんだな。」


そう、強く実感した。


完全に全身の毛がなくなってしまっていた数年前に比べて、今は少しだけましになった。生えてきた髪を切るのももったいなくて切れていないが、きっと周りから見て今の私は可愛くない。肌が見えていて。

たまに髪を結ぶ。六年間も自分の好きな髪形をできなかった自分のために、周囲と同じことができる喜びを感じながら。でも、私はまだウィッグをつけずには外出できない。


この間母が私の髪をくしで整えた。

楽しそうに、笑いながら。

そしてゴムで結った。病気になる前のあの頃のように。


「まだ短いね。」


と母は言った。

上手く結ぶことができなかった。

つけたゴムは、一瞬でとれてしまった。


私だけがずっと、髪がないことを悲しんでいたと思っていた。でも、同時に母の小さな楽しみを、大切な時間をも奪っていたのだということに気づいた。


治るかなあ。

あなたに早く、髪を結ってもらいたい。

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結う よる @September_star

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