第7話

 職業ジョブとは自身の秘めたる力――スキルを開花させるために就くものである。

 戦士、弓士、密偵、格闘家、槍使いなどが冒険者の定番職業となる。

 しかし一般人になると職業の幅はさらに広がり――。

 鍛冶士、大工、料理人、吟遊詩人、薬師、庭師。

 ――など数多の職業が存在する。



 またその高い専門性から貴族待遇あるいは貴族がなる職業として騎士、軍師、魔術師、錬金術師などもある。



 このように職業ジョブは多数あるが、普通ではなれない職業が存在する。

 それが名誉職業と呼ばれる特別な職業になる。

 代表的な名誉職が「勇者」と「聖女」になる。

 勇者と聖女はそれぞれがユニークスキルを先天的に有しており、そのため神の決定を神官が「奇跡」と認定し、国が承認することで、広く公表される。

 そのため――。



「ながい! 一言でまとめてくれ、ニャス子なんて昼寝しちゃったよ」

「ふにゃ~~ぐ~~」

「――おほん、つまりだな性別とか関係なくキミは聖女ということになる」

「だああああ、なんでそうなるんだよ! おかしいだろっ!!」

「ん……そもそも回復魔法が自然の摂理に反してる」



 非化学の権化が自然の摂理を説くなよ。

 いやゾーイにツッコむのはお門違いだな。

 それより何となくわかってきたぞ。

 ニャス子が寝る前に言っていた話を総合するとこういうことだ。



 まず前任者の神友もたぶんネコで、たまに人々に回復魔法を授けていた。

 その授ける基準が(・Y・)になる。そうおっぱいだ。

 つまり人がネコの肉球やモフモフあるいは「ω」に癒されるように、ネコ神も女性の胸の柔らかさに癒されていた、ということになる。

 なんていやらしいエロ神がいたものか。

 まあ、そうなると聖女の基準は男や平たい胸族は除外される。

 これが男の回復魔法の使い手がいない根本的な原因になる。



「んで、俺は拘束されて国王様の前に連れてかれるのか?」

「それについては――ううむ。上司には報告を――いやしかし」

 クリスは悩んでいるが、答えを出せないでいた。

「ん……止めといたほうがいい……」

「いやしかしゾーイ。さすがに秘密にするのも――」

「ん……報告して一番運がよくて……レージは女装して一生を過ごす」

「なんでだよっ!?」

「そうだな。男の聖女が誕生したなんて広まったら大混乱が起きるだろうな」

「うん……最悪の場合、国が二分して……宗教戦争……たぶん全員死ぬ」


 おおう……中世さん。価値観の違いを受け入れてくれよ……。


「たしかにただでさえ魔物の可愛いネコ化で宗教側は荒れていると聞く。そこに聖女まで変わったとなると――」

「ん……たぶん新しい宗教が大量に出て……争いが戦争になる……」

「ぐごご…………ふにゃふにゃ~~」

 その元凶にして新しい女神は二人の目の前でお腹を晒しながら寝てるんだよな……。



 クリスはしばらく考え込んだ。

 まあ、こればっかりは仕方ない。

 だけど内容によってはこの国を出ていかないといけなくなるな。



「よしわかった。騎士たるもの何も考えずに国を危険にさらすわけにはいかない」

「ん……それじゃあ報告しないということで……いい?」

「ああ、レージすまないが回復魔法は人前で決して使わないと約束してくれ。この3人だけの秘密を守ることが国を、そして世界を守ることにつながる」

「ん……秘密の盟約……破られし時……最後の審判ラストジャッジメント! ……んふふ」

 あれ?

 ゾーイさん中二病ですか?

 それは黒歴史不可避ですよ?


 …………。


 いや、本家本元だから、不治の病か……。



「ん……レージ? なんで哀れんだ目で見るの? え、なんで??」

「いや、強く生きろよ」





 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆





「うわっ!? ほんとに街に戻って来てる!」

「転移魔法なんだから、当たり前よ」


 そうは言っても数十キロ離れた場所まで移動できたら驚くよ。


「ん……それじゃあ……今後も依頼するから……よろしく」

「わかってるよ。さすがに2人以外とパーティー組む気になれない……」

「ああ、定期的に近隣の村々の調査クエストを、キミ指名で出すから受けてくれ」

「ん……ネコハンターだから……という理由で周りを騙せる」

「ああ、わかった」


「……それじゃあ、ニャスちゃんしばしの別れだ」

「ん……かわいい。かわいい」

「にゃは、あごの下をよくかくのじゃ。これお尻のあたりをかくでない」

「こうか? こっちか?」

「もふもふ……んふふ」

「レージよ。お主も2人のようにちゃんとカキカキもふもふするのじゃ」

「あはは、今度な」

 さすがにそれが原因で一度宿屋追い出されたからな。

 もっと人気のない場所じゃないとしたくない。



 それから2人と別れ、さびれた宿屋に帰る。

 戻るなりニャス子は「眠いから寝るのじゃ」といって寝てしまった。

 まだ夕方であり、寝るには早すぎる。

 そこで俺は1人夜の街へと向かうことにした。



「お、レージじゃないか!」

「だはは、最近見ないと思ったらどこ行ってたんだ?」

「郊外の屋敷までネコの調査っす」

「なんだ冒険者みたいなことして」

「そうだぜ。俺の華麗な猫車さばきを今度みせてやるぜ」

「マジっすか!」

「よーし、俺たちのヒール一丁!」

「――ッビク!?」

「どうした?」

「うっす。なんでもないっす」



 俺の唯一の楽しみである酒場でシュワシュワした飲み物を飲む。

 それなのに俺たちのヒールって。

 ああヤダヤダ。



「なんでヒールなんすか?」

「なんだ知らねえのか?」

「いいかレージ。ヒールってのは回復魔法で聖女しか使えないんだよ」

「んで、聖女ってのは勇者と行動するから、勇者専用の回復魔法ってことになる」

「俺たち庶民のヒールってのは、コレってことさ」

「うっすなるほどっす」

「ちなみに聖女ってのは歴代巨乳らしいぜ。うへへへ」

「マジっすか!」

 これ最初の時に聞いとけばすぐわかったんじゃないか。

 そう言えば、聞くは一時の恥、知らぬは一生の恥。

 昔の人がすでに気付いていたんだね。

 今度から疑問に思ったらちゃんと聞こう。



「おう、今日はやけににぎやかだな」

「あ、ゴンザレスの親方!」

「なんだレージじゃないか。どうしたまた日雇いでもするか?」

「いえ、いまは外でネコの調査とかいろいろ……そういろいろあるっす」

「そうかい。けどなんか考え込んでる顔だからな。何か聞きたいことでもあるんじゃないか?」

 さすがに聖女うんぬん言うわけにもいかない。

 そうなると……。

「うっす。冒険者として職業を決めたいっす。けど決まんないっす」

「戦士とか魔法使いってやつか」

「あいつらのジョブは腕っぷしはあるが、応用が利かないんだよ。応用が」

「俺たっち大工っは腕もたっつが、家もたっつぜ~!」

「よっ大将! よく言った!」

「ぎゃははははは」

 なんかどんちゃん騒ぎになり始めた。

 まあいつものことだけど。

「レージお前はなに言ってるんだ。大工ギルドにいたんだから職業は大工だろ。大工ギルドのギルドカードはそうなってるぞ」

「え、マジっすか!?」



 俺の冒険者ギルドカードには職業欄が空白になっている。

 だが、すっかり忘れてた大工ギルドのカードにはしっかりと大工と書かれていた。


 つまりこういうことだ。


 俺は他称ネコハンターであり、自称はモンスターテイマーであり、心の中の職業は詐欺師であり、国の名誉職は聖女になる。


 しかして、ギルドカードに記載される本当の職業は大工になる。


 冒険者レージは大工である。


 …………ジョブとは?


 その疑問で頭がいっぱいになったが、シュワシュワですべてを忘れて明日を迎えるのだった。

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異世界ネコハンター ~魔物が全部ネコになった世界!? しかもネコについて知ってるのが俺だけってどういうこと!?~ かくぶつ @kakubuturikyu

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