15.ちょっとしたお話し
ルーリックがまだ前の部隊に所属していたころ、一人の少女と出会った。その子は親と死別し、一人ぼっちだという。10ほど離れた兄がいるというのだが、仕事が忙しく構っていられないと言い、よく面倒を押し付けられていた。
漆黒部隊――暗殺を主軸とした組織で人数は10にも満たないころ、ここの隊長としてルーリックは所属していた。組織中女一人だったルーリックはよく隊員ともめ事を起こしていた。
「女なんかに任せられるかよ!」
まだ女が前線に出ることがなかったこの時、ルーリックは日々男どものつまらないもめ事にうんざりしていた。
「なぜああもう見栄を張るのだろうか」
ルーリックはこの部隊で上手くやっていけるのかと不満だった。ある日、漆黒部隊が任務の失敗で全滅したと知らせが届いた。そのときルーリックは別任務で単独行動をしていたため死から免れることができた。
「なにがあったんですか!?」
別任務でいない間、部下たちが一体何があったのかと問いかけた。
「暗殺(女王陛下)が失敗したんだ。証拠を隠すため部隊は処刑した。君には申し訳ないが今日から別の組織に入ってもらう」
「…はい」
ルーリックはそれ以上に詳しい事情を聴くことができなかった。部下たちが全滅した。みんな殺されたと聞いてルーリックはひとりショックを受けていた。自分勝手な奴らだったけどみんな仲間想いでそして酒が好きなバカな連中だったと愚痴をはいていた。
トイレの芝生に寝転がり、酒瓶を枕代わりにして眠りについた。嫌なことがあったらこうしてやるのが密かの楽しみと自分に納得させていた。
「君がそんな趣味があるとは驚きだね」
「――!?」
ハッと起き上がり身を構えた。
「だれだ!?」
颯爽と煙幕と共に現れたのは少女を連れた一人の青年だった。
「あなたは――」
「申し遅れたルアージュと申します。こちらがユーリです。私の妹でございます」
「はあ…」
ルアージュと呼ばれた男はさっそくと言わんばかりにユーリをルーリックに託した。
「え?」
「この子を預かってもらいたいのです」
「え…ちょっと」
「拒否権はありません」
胸の紋章をはぎ取り見せた。ルーリックはハッと気づき「失礼しました」とお辞儀した。
「では頼みますね」
煙とともに姿を消してしまった。
ルーリックは頭がついていけず混乱しているとユーリが「私に戦う術を教えてください」と唐突にいったのだ。
「いったいなぜ――」
ユーリの堅い決心に気づきルーリックはため息とともに返事した。
「――わかったよ」
これがユーリと初めて出会ったきっかけだった。この後、ユーリが兄貴のための生贄となるとは思いもしなかった。
月の涙と過去の英雄 にぃつな @Mdrac_Crou
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