一緒に行こう?

樋口 今宵

短編小説【1話完結】

"一緒に行こう?"


私は彼に問いかける。


彼と出かけるのは何か月ぶりだろうか。


"行くって、どこにいくのさ"


私ははっとする。


"特に考えてない、でも、そういうものでしょ?"


喉までこみ上げてきたが、なんとか横隔膜まで戻した。


そうだった。


彼には決定力がないのだ。


"水族館に、行きたいな。"


私はなんとか口にした。


彼は何故かまったく乗り気じゃない。


でもそれを問い詰める勇気は私にはないから、きっと何かがあったんだろうと考えるだけにとどめる。


やっぱり、今日は彼の様子がおかしい。


なぜか乾いているし、ちょっと力を入れたら破けてしまいそうだ。


だけど、久しぶりの外出は楽しかった。


いろんなところを回って、いろんな思い出を描いた。


そして帰り際、我が家が見えてきたねと話していた時、


バンッ


体に衝撃が走った。


”何してるの一体!”


女性の叫び声。


何故か、聞いたことがある声だった。


もう一度、女性の叫び声が聞こえる。


"早く行くわよ!"


"いくって、どこにいくのさ。"


あ。


そうだ。


そう思い出して、机から顔を起こし、突っ伏していた下書きノートを閉じる。

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一緒に行こう? 樋口 今宵 @koyoi_higuchi

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