4章「残月の鬼のしもべ」その2
華伝が家に戻った時、すでにそこには誰もいなかった。そう、いつもそこで彼の帰りを待っている少女の姿すら。
「ルカ!」
彼は土足のまま、家の中を見て回った。やはり家には誰もいなかった。ただ、庭に面したガラス戸が一枚やぶられており、居間の座卓の上に置いていたブルーベリーのミルフィーユが半分なくなっていた。さらに、その横に書置きのメモがあった。
「兄さんの大事なモノはオレがしばらく預かっておくよ。兄さんはその間に、竜薙の風花を用意しておくんだね。頃合いを見て、また連絡するからさ。あと、ミルフィーユ美味しかったよ、ごちそうさま」
「くそ!」
華伝はそのメモを握りしめ、壁を強く殴った。壁に亀裂が走り、へこんだ。怒りで血が煮えたぎりそうだった。よりによって、彼女に手を出すなんて。絶対に許さない――。
だが、灼熱の炎の中で一本の鋭い刀が鍛練されるかのように、強い怒りの中で、彼の理性は恐ろしく研ぎ澄まされて行った。彼は自分のなすべきことを知っていた。すぐに自分の部屋へ行き、ベッドの下に突っ込んでいた細長い紙の束を取りだし、床に広げた。そして、それらに手をかざし、一枚を選んで取った。紙には全て、奇妙な文様が描かれていた。
そこで、彼のスマートフォンが鳴った。今度は弓雅からだった。
「華伝、さっき、孝太郎から連絡があったんだが――」
「叔父さん。ルカが左紋に連れ去られた」
「なんだと?」
「僕はこれからルカを取り戻しに行く。叔父さんは一刻も早く用意してくれ。竜薙の風花を」
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