2-3

 三人の男たちの姿は、変わらず目抜き通りにあった。店の軒先にたむろして、何かを話し、時おり笑い合っていた。

 その笑いを、わたしたちが掻き消した。

「あ?」酒瓶を手にした男が言った。「何だい、お嬢ちゃん?」

 他の男たちには眼もくれず、わたしはブッツァーティだけを見ていた。

「こいつ」と、傍らで声が上がった。酒場で揉めたカウボーイだ。「このガキだ。あんたを探し回ってたのは」

 本当にブッツァーティと繋がっていたという点では、この男も全く役立たずというわけではなかったらしい。でも奴の仲間ならば、やはり頼るべきでもなかったのだ。

「へえ」軒下の影の中で、ブッツァーティが笑った。同じ笑みを、わたしは奴が牧場へ来た時にも目にしていた。「お嬢ちゃん、俺のファンかい?」

「わたしのこと、覚えていない?」

「生憎と毛も生えそろってないようなお子様に手を出す趣味はなくてね」

 他の二人が下卑た笑い声を上げた。尤も、こんな反応が返ってくることは予想済みだった。わたしは奴を睨めつけたまま続けた。

「ジム=モーゼスの仇を討ちに来たわ」

「モーゼス、モーゼス……さあ、知らねえな」

「ナサニエル・ヨークであなたが殺したソート業者よ」

「ああ」ブッツァーティは顎を擦りながら言った。たった今思い出したという姿勢を、白々しいぐらいに強調して。「そういや、そんなのもいた気がするな。酔っ払ってたんでよくは覚えていねえが」

 わたしはホルスターから銃を抜き、ブッツァーティに向けて引き金を引く様を克明に思い描いた。軒先に腰掛けた相手の姿勢からするに、こちらが手間取らなければ或いはということも考えられた。

 けれど、そんな希望的観測はすぐに打ち砕かれた。

「やめときな」暗がりでも、ブッツァーティの眼に光が帯びるのがわかった。「お前に俺は殺せねえよ」

 ホルスターに伸びかけた手は硬直し、銃に触れることはなかった。たとえ掴めたとしても、引き抜く前に返り討ちに遭うという確信があった。

「覚悟のない奴に銃は撃てねえ。お前にはその覚悟が欠けているのさ」

「そんなこと――」

「ないとは言わせねえ」わたしの言葉を断つように言って、ブッツァーティの視線が動いた。後ろに立つ〈名なし〉を見たのだ。「だったらそいつは何なんだ?」

 言葉が出なかった。

 覚悟――。そんなものがあれば、そもそも助っ人など探さなかったのだろう。わたしは結局、覚悟を持ち合わせていない。最後に引き金を引く勇気は、わたしの中には存在していなかったのだ。

 ブッツァーティが口を大きく開け、笑い出した。高笑い。他の二人も続いた。これまでの人生で最も屈辱的な声が耳から侵入し、わたしの身体を弄った。耳を塞ぎ、その場に蹲るのを堪えられたのは一重に、相手にこれ以上の優位性を感じさせたくなかったからだ。ここで弱さを見せれば、いよいよ復讐は不可能となるに違いなかった。

「――けどまあ」笑いが尾を引きながらも、ブッツァーティが言った。「こんな所まで追っ掛けてきた心意気は買ってやる。一度だけチャンスをやるよ」

 わたしは黙って続きを待った。

「決闘に応じてやる。やるのはお前かそのヤサ男、どちらでも構わん」

「おいおい、大丈夫かブッツァーティ? ボスが待ってるんだぜ?」傍らの一人が言った。

「その赤マント、なかなかの手練れだぜ」カウボーイが言った。彼は経験を熱心に語ろうとしていた。「ナメて掛かるととんでもねえ目に――」

 鈍い音がして、言葉は遮られた。カウボーイが鼻を押さえながら蹲った。

「丁度身体が鈍ってたところだ。カルヴィーノの旦那に会う前に、勘を取り戻すには良い機会だ」拳の骨を鳴らしながら、ブッツァーティが腰を上げた。「ちゃんと役に立ってくれよ。なあ?」

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