第4話
彼女は食事を終えると、お風呂に入りに行った。僕はベッドに寝転んで、本を読んでいた。彼女はお風呂から出るとスウェットに着替えた。髪にドライヤーを当てている。僕はそんな様子を時折眺めていた。
深夜になるまで僕らはテレビを見ていた。ドラマがやっていた。彼女は時折冗談を言って僕を笑わせた。あっという間に時間は過ぎていく。
「そろそろ寝ましょうか」
僕らはベッドに横になった。いつもは誰もいない布団の中に今日は彼女がいる。彼女はそっと僕の頭に手を伸ばし、僕のことを撫でた。
「かわいそうな祐君。私のことが忘れられなくて次の恋に踏み出せないのね」
彼女はそう言って笑った。
部屋の中にはクローゼットがあり、カラーボックスがあり、小さな本棚もあった。どれも昔からほとんど変わっていない。
外からは時折車が通る音と風の音がしていた。
「恋人を作らないのはたまたまだよ」
僕はなんだか悲しくなった。ふと涙がこぼれてくる。理由はわからない。
「あなた、私がいないと駄目なんじゃないの?」
「いや、別にそんなことはないんだけどさ」
僕は大人になった今でも泣くことはあるんだなと再認識した。それくらい、不思議なくらい涙が出てくる。
「がんばりなさいよ。それで私よりいい人を見つけなさない」
彼女の目を見つめると、彼女も少しだけ泣いていた。
僕は目を閉じた。彼女の姿も部屋の天井も見えなくなる。ただ彼女の手の感触だけがあった。
不思議なことに眠気はすぐにやってきた。僕は時折眠りに落ちそうになる。僕は彼女が隣にいることで安心していたのだろう。
「さようなら。あなたの幸せを願ってるから。私、あなたと過ごして幸せだったの。だからあなたにもこの先幸せになってほしい」
僕は彼女がそう言ったのをまどろむ意識の中でぼんやりと認識した。僕はそれから目を開けることはないまま眠りに落ちていった。
翌朝目覚めると、鳥の鳴く声が聞こえ、部屋の中は明るかった。彼女の姿はなくなっている。僕は起き上がり彼女の痕跡を探したが、いつも通り何も変わっていなかった。
四年の月日 @kurokurokurom
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