last episode

「こんにちは」


 白一色に染められた男がそろりと小屋へ入ってくる。

 その胸に堂々と赤をつけている男。赤の薔薇のように咲かせていた。


「こんにちは。紅茶をお淹れします」


 僕が奥へ行こうとすると、手を掴まれた。


「それより、話をしてくれないか……? 頭がおかしくなりそうなんだ」


「紅茶片手に話したほうが落ち着くと思いますよ?」


 しばらく時計の音だけが鳴り響く。


 男はしばらくして、世間話を始めようと口を開きかけた。



「あなたのその片手に持っているものは、何ですか?」


 男は、よく分からない、という顔をして自分の手を見た。


「ああ、これはアイスピックですよ。お酒を飲むときになど、氷を砕くためのものです」

 そのアイスピックは赤く染まっていた。ポタポタと白い床に赤が侵入する。


 腹を撫でながら男は言った。

「そうか、僕、死んだのか」


 僕は何も言わなかった。男はにこりと笑って続ける。

「あなたは死神か何かなのですか?」


「いいえ? そんな大したものではございません」

 僕が即答して会話を断ち切るようにすると、男はまた笑った。



「彼女は来ましたか?」

「どちらの彼女でしょうか?」


 少し重巡して、口を開く。残酷に、冷徹に。


「多分、2番目だと思ってる人」

「なら、先ほどいらっしゃいました」

 そうか、と少し残念そうに言う男の目には涙などというものは浮かんでいなかった。


「あなたはどうやって亡くなられたのですか?」


「うーん多分刺されたんじゃないかな?」


「そうですか」

 紅茶がない割には有意義な時間だった。



「よしっそれじゃあ、そろそろ行くよ」


 そう言った彼は、言い終わると同時に消えていた。



「またのおこしを、お待ちしております」




「皆様、どのようにお楽しみいただけたでしょうか?


 主役? 脇役? それとも当事者ですらありませんでしたか?


 何を思い、何を思い出しましたか?


 人間とは不思議な生き物ですよね。


 どうしたら答えなんて出るのでしょう。


 死んだ後は、どうなるのでしょうね。


 僕は、この立場が気に入っています。


 皆様は、どうなりたいですか?



 皆様は、今どこにいらっしゃいますか?


 ここに来る方が皆死んでいると、一言でも言ったでしょうか?


 ではまた、どこかで会える日を楽しみにしております。


 さようなら


 もうここには来ることがないよう、お祈りしております」

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森の中の小屋 碧海雨優(あおみふらう) @flowweak

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