第15話
「あなたたちがこんなに薄情だとは思わなかったわ」
ドレスの打ち合わせが終わりマダムとオズワルドを帰した後、私はメイドたちを並んで立たせた。みんなバツの悪そうな顔をしている。
アンだけでなく使用人の多くは、私の縁談が急速に進められていることに異議を唱えてくれていた。
縁談そのものに反対の声は上がっていないのは知っていたけど、せめて私とオズワルドがもっと親しくなってからではダメなのかと、兄にやんわりと申し立ててくれた者がいるのも知っている。
「まさかあんな一言で寝返られるとは思っていなかったわね」
「申し訳ございません、お嬢様。でもその、オズワルド様があんなに純真な方だとは思わなくって」
私はため息を吐く。
家の者が内心では私が修道院に行くことを快く思っていないのは知っている。
貴族の令嬢であるならば、良い縁談を組んでもらって家や国の発展の為に尽くすのが望ましい。
仕えている家の発展は使用人への名誉にも繋がる。もしこの家を出ることになっても、私が幸せな公爵夫人として知られていれば彼女たちにも箔がつくのだ。
それでも私の夢だからと黙っていてくれたけど、今日の一件で考えが変わったらしい。
裏切りだとは思っていない。使用人として当然のことだ。
「あんなの演技に決まってるでしょう。ドレスで肩が出てるのなんて普通じゃない」
「でも物腰が柔らかくて、笑顔も素敵な方でしたよ」
「お嬢様の隣に立つとまさに美男美女でしたわね」
「公爵家のご子息ですし、もっと高慢な方だと思っていました」
どうやらすっかり落とされてしまったらしい。
まさか、あの演技はこの為だったりするのだろうか。
カーラが私の肩にそっと触れる。
顔には「諦めたら?」と書いてある。
「確かに悪い人ではないと思うわ。でも、そもそも私は結婚したくないの」
わがままを言ってる自覚はあるけど、こればっかりは譲れない。
すぐ離縁出来るとか、何年か結婚生活を営めば修道院に入って良い、という話なら譲歩も出来たけど今回はそうではないし、一度公爵家に入ったら逃げ出すのは難しい。それこれわがままなんかじゃ済まされない。
それなのに今日は失敗だらけだ。何一つ上手くいった気がしない。
メイドたちを下げて、次の策を考える。
そもそも、嫌われるどころか男性の気の引き方を知らない私には難易度が高いのだ。
手を出さないようにと約束はしたけれど、あまり強引な手を使うと兄も黙ってはいないだろうし、公爵家にもバレるわけにはいかないことも考えると、今の私の知識じゃ難しい。
この件について私は甘く見ていたのだと痛感した。
でも、まだ負けたわけじゃない。むしろ勝負はこれから。少し押され気味だけど、辺境伯家の令嬢としてこの程度の痛手で怯むわけにはいかない。
私は便箋とペンを用意し、クレアや他の令嬢たち──特に恋愛について詳しい者に、手紙を書き始めた。
無い知識はこれから得れば良いのだ。
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