第14話

 しばらくして、メイドたちによって2つのドレスが選出された。


 片方はイリュージョンネックの、装飾の少ないシンプルなデザイン。もう片方はハートカットの胸元にビジューがあしらわれバルーンスカートが可愛らしいデザインだ。


「こっちが良いですね」


 オズワルドがイリュージョンネックの方を指差すと、アンを含む数人が不満げな声を上げた。

 選ばれなかった方の見本絵を私たちにずいっと差す出す。


「こちらのドレスの方が可愛いと思いませんか?お嬢様の綺麗なデコルテが強調されますよ」

「そうですよ、それにバルーンスカートなら他の方もあまり選ばれないので注目の的ですし」


 使用人にそんな態度を取られると思っていなかったのか、オズワルドはきょとんとしている。

 無理もない。

 この娘たちはドレス選びに関してはあの兄さえも閉口させるほど熱心なのだ。


「オズワルド様はどうしてこちらを?私は装飾が少ないのでお嬢様が動きやすくて良いんじゃないかと思って選びました」


 カーラが勝ち誇ったような顔でアンを見ながら聞く。この2人はいつも意見が食い違う。

 そうよね、最近はアンが選んだものに決定することが多かったものね。

 可愛いメイドたちのバチバチしたやり取りを眺めていると、オズワルドがチラッとこっちを見た。


「この方が、肌見せが少ない、かな、と」


 オズワルドがほんのりと頬を染め、メイドたちも口元に手を当てる。

 自分の眉間に皺が寄るのを感じた。


 これは何だ。何のパフォーマンスだ。どこへ向けられたアピールなのか一切読めない。

 もしかして、先程のサーシャの話を引きずっているのだろうか。こんな類の演技を出来る人間だとは思っていなかったけど、彼は案外器用な人なのかもしれない。


 室内に流れる微妙な空気を変えたのは、マダムのころころとした笑い声だった。


「あらまぁ可愛らしいですわね。そうしましたらお嬢様、今回はこちらのデザインにいたしましょうか?」

「そうね……ただ少し、このままだとシンプル過ぎるかもしれないわね。花嫁衣裳のようだわ」

「それでしたら刺繍をたっぷり施しましょう。布地はいかがいたしましょう?」

「お嬢様、絶対にこの色が良いと思います!」


 話に割り込むようにしてアンが触れたのは、鮮やかなブルーの布だった。まるで、オズワルドの瞳のような。

 少し前まで「お嬢様が可哀想だ」と泣いてくれていたアンの丸い瞳はキラキラと輝いている。


「その布だと光沢があり過ぎて刺繍がしにくいんじゃないかしら」

「ではこちらは?」


 カーラが少しくすんだブルーを手に取った。

 その微笑む顔を見て、私は完全に味方を失ったのだと悟る。


「良さそうですね、そしたら刺繍糸は」


 私の目の前でどんどんとドレスの話が進んで行く。


 どうしてかしら。今日は何一つ上手くいかないわね。

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