第6話
建物の裏口らしい扉を開くと、良い香りと賑やかな声がしてくる。
エプロンをつけた女性に案内されて二階の部屋に通された。
入った途端、テーブルに並べられたたくさんの料理に目を奪われた。
晩餐会でも無いのに、こんなにたくさんの皿が一度に並んでいるのは初めて見る。
それに料理も見慣れないものばかりだ。
オズワルドに促されるまま席に着くと、案内の女性も公爵家の従者も部屋から出て行ってしまう。
困惑する私を見て、オズワルドは声をあげて笑った。
「大丈夫です。扉を出てすぐのところにいますから、そんなに不安そうな顔をなさらないでください」
「オズワルド様、これは一体……」
「城下にある料理店が何軒か、貴族にこっそり料理を提供してくれているんです。この下の部屋でも街の人々が食事をしているんですよ」
大衆の食事の疑似体験ということか。
オズワルドが鳴れた手つきで大皿の料理をよそって私に渡す。
一つの皿にいくつもの料理が乗せられているので、味が混ざってしまいそうだ。
「このステーキは何のお肉かしら……」
「鹿です」
「鹿!?食べれるのですか?」
驚いて肉を見つめると、オズワルドがまた笑った。
「騙されたと思って一口、ほら」
恐る恐る口に入れる。
わずかに臭みはあるけど柔らかくて美味しい。
「牛に似た味がします」
「良かった。牛よりも脂が少なくて栄養価が高いので人気だそうです」
勧められるまま別の料理も口にする。
なんというか、豪胆な味付けが多いけど不思議とぱくぱく食べれてしまう。
味が混ざっても不快感は無く、これはこれで美味しい。
料理にも驚かされたけど、オズワルドの食べっぷりにも驚いた。
大皿はあっという間に空になっていく。
「メイヴィス嬢、おかわりはいかがですか?」
「いいえ、もう結構です。とっても美味しかったです」
オズワルドは残った料理を平らげると、扉の外に声をかける。
案内をしてくれていた女性が来て、たくさんあった皿を重ねて一度に持って行ってしまった。
その手際の良さに感心していると、公爵家の従者がお茶を淹れてくれる。
よく知った香りが鼻をくすぐって安堵する。
「これはエトワール公国の名産の茶葉ですわね」
「えぇ、この領内では王都の半分の値段で手に入るそうですね」
私は頷く。
この街から隣国エトワール公国は王都に行くよりも近い。
運搬にかかる経費はもちろん、王都で商売をするのには高い税金が課されているのでどうしても物価は高くなりがちだ。
「食事を気に入ってくださって良かったです。初めて一緒に出掛けるので、思い出に残る体験をしていただきたかったんです」
オズワルドは微笑みを浮かべているが、相変わらず目は合わない。
「オズワルド様、質問させていただいてもよろしいですか」
「もちろん。僕にわかることなら何でもお答えします」
「オズワルド様は、今回のお話をどう思われていらっしゃいますか」
私がそう言うと、オズワルドの青い瞳がわずかに揺れた。
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