第4話

  庭に行くと、兄とオズワルドが並んで話をしていた。

 少し離れたところから二人を見つめる。


 オズワルドを見るのは1年ぶりだ。

 緩くウェーブがかかった淡い金色の髪の毛に、明るい青い瞳。

 少し肌が黒く見えるのは、最近まで海の上にいたからだろうか。


 いつか誰かが彼のことを「天使のようだ」と言っていた。

 確かに、教会で見た天使の絵に似ている気がする。

 天使と言っても今年20歳になる立派な青年だ。

 体つきはがっしりしてるし、高身長の兄と並んでも遜色ない。


 近づくと、うっすらと会話が聞こえてくる。


「よく考えたな。留学先できちんと学んできたようだ」

「そりゃあ学んできましたけど、今回のことに関しては貴殿を見習っただけですよ、辺境伯」

「上出来だ。雑過ぎて私には真似出来ないが」


 意外にも、二人の仲は良いらしい。

 兄がこんな風に軽口を叩く人間は限られている。

 一緒にいるところを見掛けたことは無かったけど、王城かどこかで会っていたのだろうか。


 これ以上盗み聞きするわけにもいかないので、後ろから声をかける。


「お待たせしてしまって申し訳ございません。ご無沙汰しております、オズワルド様」


 オズワルドに礼をすると、なぜかじっと見つめられる。

 大体こういう反応をする人は、兄と私の顔が似ていることに驚いてるのだ。


 兄に似ているのが嫌だと言って婚約を破棄してくれないだろうか。


「今日は良いお天気ですわね。テラスにお茶を持ってこさせましょうか」


 「似てますね」と言われるのが嫌で先に口を開くと、オズワルドを眺めていた兄が首を横に振る。


「私はもう出る。夕食までには戻るからお前もそのつもりでいなさい」

「はい、お兄様」


 兄の背を見送りながら、心の中でほくそ笑む。

 まさかこんなに早く立ち去ってくれるなんて。


 オズワルドに向き直ると、目が合って咳ばらいをされた。


「こんにちは、メイヴィス嬢。今日は一段とお美しいですね」

「ありがとうございます。それで、あの、少しここでお茶をしましょうか?」


 挨拶はさっきしたばかりなので返答に困った。

 ちょっとぼうっとしている人なのかもしれない。


「えぇ……あ、いや、日に焼けると良くないです。中に入りましょう」

「かしこまりました。ご案内致しますね」


 傍で控えていたカーラに目配せすると、頷いて「こちらへ」と微笑んだ。

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