第2話
オズワルド・フォン・リード。
この国で王家に次いで最も有力だと言われている、リード公爵家のたった一人の嫡男だ。
現公爵は王国の宰相を務めていて、息子であるオズワルドもまた、その優秀さから父の後を継ぐのだろうと噂されている。
一応面識はある。
王太子に挨拶に行くと必ず横に彼がいるからだ。
一度舞踏会でダンスの相手をした覚えもあるけど、どうしてそうなったかは全く覚えていない。
本来であれば非常に名誉な縁談だ。リード公爵家は王家の血脈も継ぐ由緒正しき家柄だ。現に彼に近づく令嬢たちは何人も見てきた。
「お兄様、納得出来ません。なぜ私なのですか?」
「向こうがお前を望んだからだ」
「そんな理由で私が納得するとでも?」
「お前が納得しようがしまいが、この話は既に決まったことだ」
自分の兄が血も涙もない人間であることは知っていたが、まさかこんなに冷たい人間だったとは思わなかった。
じっと睨んでいると不機嫌そうな顔で睨み返される。
私も兄も母譲りの紫黒色の瞳を持っているからか「似ていますね」と言われることが多いけど、私はこんな、魔王のような顔はしていない。
「それにしたって、いきなり二人で食事だなんて。非常識ではありませんか?」
貴族社会において婚約者でも何でもない未婚の男女が二人きりで会うのは厳禁とされている。
婚約者であったとしても、最初は互いの父兄が同席し、少しずつ二人の時間を増やしていくのが常識だ。
それこそ二人きりで食事をとるなど、婚儀を間近に控えた間柄だと周囲に公言しているようなものだ。
「問題ない」
「大ありです」
「ない。同じことを何度も言わせるな。お前が公爵家に嫁ぐことは決定事項だ」
「顔合わせも無いまま婚姻話が進められるなんて聞いたこともありません!」
立ち上がった拍子に椅子が倒れる。
使用人のカーラが私を落ち着かせようと肩に手を置く。
「前例が無いだけだ。無駄なあがきはやめろ、メイヴィス」
これ以上ないくらいの怒りに頭が真っ白になる私に、兄は更に言葉を続けた。
「今日の食事会次第では、婚儀は来月になる。準備をしておけ」
「お嬢様!」
カーラの制止を無視して、私は目の前にいる兄にグラスの水をかけた。
濡れた前髪を鬱陶しそうにかきあげた兄と目が合い、睨み合う。
「馬鹿にするのもいい加減にしてください。私は絶対に、結婚なんてしませんから!」
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