新婚一年目に突入したので全力で離縁を目指します
PPP
第1章 結婚0年目
第1話
「どういうことですか?」
「言葉の通りだ。今日、オズワルドが昼にお前を迎えに来る。昼食は外でとりたいとのことだ」
「冗談はやめてください!」
大きな声を出した私を、兄が睨む。
負けじとこちらも睨み返す。
「嫌です。絶対に行きません」
「わがままを言うな」
「わがままですって?お兄様が私におっしゃったんでしょう。17の誕生日を迎えたら、修道院に入っても良いと!」
「状況が変わった。メイヴィス、お前との約束は破棄する」
絶句して声も出ない私に、兄はそれ以上声をかけることはなく食事を再開した。
私、メイヴィス・キャベンディッシュはダンエルグ王国の辺境伯の娘として生まれた。
9歳の時、両親は旅先で事故に遭い他界。
それ以来、辺境伯の地位を継いだ5つ上の兄マーヴィンと共に暮らしている。
私には夢がある。それは修道院で聖歌隊に入ることだ。
幼い頃に両親と兄とで訪れた教会で聖歌隊の歌う姿を見た時、私は人生で初めて感動に打ち震えて涙した。
神への愛を厳かに歌い上げる修道女たちは、ドレスよりも花よりも、この国の宝と言われる王妃様よりも美しかった。
もちろん、貴族の娘が修道女になるなど許されないとわかっていたから、なりたいと口に出すことは無かった。
それでも足繁く教会に通い、毎日讃美歌を口ずさむ私を見て聡い兄はわかっていたのだろう。
両親が亡くなって数カ月後、10歳になった私を兄が呼び出した。
「貴族の娘が修道女になるのは外聞が悪い。17になるまで待ちなさい」
突然告げられた言葉に戸惑う私をよそに、兄は続けた。
「今の世は平和だ。じきに辺境伯の役割は無くなる。没落するかもしれない家の娘を欲しがる家も少ない」
「この家は、取り潰されてしまうんですか?」
「長年の王家への働きが認められて地位を剥奪されることは無いだろうが、いずれはこちらから返上することになる。近年はずっと王国直属の国境警備隊が配備されているのを、お前も知っているだろう」
頷くと、滅多に笑わない兄が微笑んだ。
「幼い頃からの夢が叶うんだ。笑いなさい」
それから6年が経ち、再来月の誕生日で私は17歳になる。
いよいよ修道院へ入るのかと毎日期待に胸を膨らましていた私に、兄は朝食を食べながら先程の言葉を告げたのだ。
あの日、私に修道院に入っても良いと言ったのと同じ声音で。
お前はオズワルドの婚約者に選ばれた、と。
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