微妙な響き

ハミヤ

第1話 微妙な響き

 2人で星を見ながら歩くのは何度目になるだろう。

 長期出張で水戸にきて2人でご飯を食べるようになったのが5月の初めだ。

 それほど彼女に興味があったわけでもないし、仕事を一緒に進めるわけでもない、勤務もバラバラでそれぞれで動かないといけないので、特に仲良くしなくてもいいことにほっとしながら水戸にきたのに、気がつけば彼女の声や笑った顔、仕草まで気になる様になっていた。

 特に声が女子としては独特の低い響きで、仕事モードで話す時は若干人を威圧する様に響くのだ。

 そんな彼女と食事を一緒にしていて気がついた。

 女子にしては低音で人を威圧していると思っていた声は、2人で話すうちに変化した。変化と言うより気がついたと言ったほうがいい。

 笑った時、少し抑え気味に真面目に話す時、その声に甘さが含まれる。

 それは気付きにくいほど微妙で、僕の耳だけに届いてくるのかもしれない。

 僕はその微妙な響きを感じ取ってしまった。

 話したいなと思う事が多くなった。

 ここ数日、食事にはよく行った。

 出かけた後、彼女の滞在先に送っていく、平気だよ、みたいにバイバイと手を振った。

 自分のアパートに戻り、すぐに会いたいなと思っているとLIENが来た。

 彼女のちょっとした気まぐれを口実に車で迎えに行き、カラオケに連れ出したりしてしまう。

 こんな中年のおじさんが、大学生みたいな行動で彼女のアパートに迎えにいく。

 バカじゃんと思う。が、そんな行動も嬉しかったりするのは久しぶりの感覚だったからだ。

 そんな自分が冷静でいるつもりでも気持ちが疼く事に困惑もある。

 言葉にはできないし、それを言ってしまえば、たぶん自分が傷つく事になる。

 星空はそんな僕を無視してすごく綺麗だった。

 少し夏の匂いがする。

 濃密な時間は砂時計の様に減っている。

 気持ちが抑えられずにやっと声を出した。

「手を繋がない?」

 これが精一杯の僕の出せる気持ちだった。

「いいよ」

 彼女の声が響く。

 少し彼女の方を見て目があった。

 お互いに照れた様に苦笑いする。

 手を繋いで歩く事がこんなに嬉しいなんて、これじゃあ大学生どころか中学生だな。

 静かな道で時々車が通りヘットライトに照らされる。

 2人の影が流れる様にライトと共に消える。

 もうすぐこの出張も終わる。

 水戸での事はきっと夢の様に醒めてしまう。地元に戻ると日常に戻るのだろうなと思い少し強く彼女の手を握った。

 何年かしてこの時間を夢に見て、彼女の声が聞こえてきたらきっと僕は泣くだろうと思った。

 

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微妙な響き ハミヤ @keneemix

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