役に立てる事

 上位魔神グレーターデーモンが両手に炎を灯して大魔法の準備が整ったのを確認すると、鬼族の姫クイーン・オーガがにやりと笑って、戦斧を振り上げた。

 その時、ティリスの周囲の水面が、一瞬だけパシャっと跳ねた。ただ、俺は何かそれが引っかかった。違和感を抱いたのだ。

 これだけの戦闘であるし、大技を出す準備を二人がしている。川の上流の浅瀬だし、魚がいても不思議ではないので、水が跳ねるのも──


(……魚? いや、待て! 今ここに魚なんているはずがない!)


 目に見えている川は確かに透明な水の川であるが、ここには猛毒を垂れ流している原因──巨大大食植物アドニス──がいる。色で現すなら、きっと禍々しい紫色をしていて、魚などいるはずがないのだ。

 それに気づいた俺は、慌てて駆け出していた。

 ティリスは大魔法のモーションに入っている。ララも何か大技を出す。ここで二人の息が合わないと、きっとこの大食植物アドニスには致命傷を与えられないだろう。

 なら、俺にできる事は──


「食らいやがれ、化け物! 剣聖の何とかバスターーー!」


 ララがそう叫んで戦斧を振り下ろすと、空間に断層が生じた。その断層から闘気の奔流が生まれ、そして波となって大食植物アドニスに襲い掛かる。

 なるほど、剣聖の<勝利を齎す破魔の斬撃エクセリオンバスター>にそっくりだ。彼女はルネリーデと戦った際に、剣聖の必殺剣のコツをおおよそ掴んでいたようだ。きっとルネリーデが知ったら悔しがるだろう。

 だが、今の俺はそれに感動している時間はない。ティリスの背後で水飛沫が小さく上がっているが、彼女がそれに気付いていないのだ。そう……あれは大食植物アドニスの触手だ。正面切ってだと攻撃が当たらないと悟った大食植物アドニスは、こっそりと水面に触手を忍ばせて、攻撃を仕掛けてようとしていたのだ。植物なのにどこまで知恵をつけているのかわからないが、今、彼女は危機に瀕している。いくら上位魔神グレーターデーモンと言えども、不意打ちなら背中を貫かれる可能性もある。


(間に合え~~~!)


 横目で、ララの闘気剣が大食植物アドニスを大きく切り裂くのを見つつ、全力で走る。

 それと同時に、ティリスが上位魔法を放った。


「<不死鳥の業火ツァール・ポエニクス>!」


 ティリスの両腕から、不死鳥を象った炎が生じて、大食植物アドニスに襲い掛かる。おそらくこれは<火球ファイヤーボール>の上位魔法で、人族が知らない魔法だ。本当ならその美しく芸術的な炎をもっとゆっくり鑑賞したいところだが、そういうわけにもいかなかった。

 ティリスが魔法を放つと同時に、俺は彼女に体当たりするように飛びかかって、その背中を押した。


「アレク様!? えっ──」


 ティリスが驚いて俺を見たが、その瞬間に美しい顔を蒼白とさせていた。

 大食植物アドニスは粘液ごと燃やし尽くす業火を浴びて、これまでにない大きな悲鳴を上げた。そしてその悲鳴と同時に、今度は俺も激しい痛みを感じて、口から血を噴き出していた。

 ティリスを救う代わりに、奴の触手が俺の腹を貫いていたのだ。


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こんな場面であれですが、新しい小説を公開しました。

よかったら読んでやって下さいませ。


金髪の聖女様が俺の前でだけ奇声を発するんだがどうすればいい?

https://kakuyomu.jp/works/16816410413888690744

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