ティリス・ララVS大食植物②

 鬼族の姫ララは闘気を纏ったまま高台に移動して、精神を集中させ始めた。そして、一層闘気を高めている。おそらく闘気を用いた大技を出すのだろう。

 一方の上位魔神グレーターデーモンは巨大大食植物アドニスに近接戦を挑むべく、上空から急降下して攻める。しかし、ティリスが近寄れば、一気に数多の触手が彼女に襲い掛かっている。彼女はそれを<火球ファイヤーボール>で焼き払い、大食植物アドニスの近くを飛び回った。そして、触手を掻い潜りつつ、急接近して<支配領域インペリウム>で肉体ごと切り刻もうと攻撃を加えている。肉体を傷つけ抉っているようだが、致命傷にはなっていなようだ。しかも、その傷も瞬時に再生している。

 ティリスの<支配領域インペリウム>は半径5メルト以内の空間を自由に扱えるが、大食植物アドニスのサイズは小さな砦ほどだ。完全に密着している状態でも、おそらく核までは届かないのだろう。<支配領域インペリウム>を以てしても致命傷を与えるには至っていない。しかも、余計に怒らせている節すらある。

 ティリスは<支配領域インペリウム>での攻撃を諦め、陽動に徹するように大食植物アドニスの周囲を飛び回った。加えて、粘膜を剥がずように<火球ファイヤーボール>を打ちまくっている。<火球ファイヤーボール>の連射・同時放出など、これまでララや勇者パーティーを圧倒した攻撃を加えるも、攻撃が通っていない。


「草の分際で、ちょっとしつこすぎです!」


 ティリスがそうぼやきながら、触手を<支配領域インペリウム>で切り裂く。

 今度は水辺なのを利用して、片足だけつけると──


「<地獄蜘蛛の巣トード・ギーヴェ>……!」


 彼女が呟くと同時に黒い雷が蜘蛛の巣となって、水面に張り巡らされた。勇者パーティーの動きを封じ込めた黒い稲妻の魔法だ。水面だから、電気が通りやすいと考えたのだろう。

 この世のものとは思えない、何とも気色の悪い悲鳴があたり一面に響いた。それと同時に無数の触手がティリスの方に伸びている。何とあの触手は伸縮でさえも自在らしかった。ティリスはその触手を切り裂きながら、<地獄蜘蛛の巣トード・ギーヴェ>での攻撃を続けた。かなり痛みはあるようで、ずっと獣でも怪物でもないような、得体のしれない叫び声を大きな口から吐き散らしていた。


「よし、効いてる……って、まずい、ティリス! 飛べ!」


 襲い来る数多の触手の処理と<地獄蜘蛛の巣トード・ギーヴェ>に意識を取られていたのだろう。巨大大食植物アドニスの大きな口が彼女に向けられて開かれていたのに気付いていなかったのだ。

 ティリスが俺の声にハッとして前を向くと同時に、大食植物アドニスは猛毒のブレスを放った。ティリスは<地獄蜘蛛の巣トード・ギーヴェ>を解いて、風魔法を地面に叩きつける事で瞬時に空へと舞い、間一髪でそのブレスを避ける。おそらく、自力で飛ぼうとしていたら間に合わないと判断したのだろう。英断だった。


「すみません、アレク様!」


 アレクは頷き、大食植物アドニスを観察する。

 しかし、どうにも弱点らしきものが見つからない。雷撃も致命傷にはならず、炎も通らない。物理攻撃も深く届かない……なるほど、この巨大大食植物アドニスはララだけでなく、絶対無敵と思われたティリスとも相性が良くないらしい。

 ティリスの<支配領域インペリウム>は半径5メルト以内の敵ならばどんな固いものでも切るも潰すも自由だが、相手が大きすぎると致命傷を与えられないのだ。しかも、相手は大きい上に再生力もある。今もまだ致命傷らしい致命傷は与えられていない。いや──


「ティリス、<氷槍ダイヤモンドスピア>だ! それならきっと粘膜は通る!」


 ティリスはこちらをちらりと見て頷き、瞬時に<氷槍ダイヤモンドスピア>を同時に4本放った。

 <氷槍ダイヤモンドスピア>は大食植物アドニスの体に吸い込まれるようにして突き刺さり、また気色の悪い悲鳴があたりに響き渡る。そして、今度は瞬時に粘液で突き刺さった氷槍を溶かして、反撃の猛毒のブレスをティリスに吐きかけていた。一応これまでよりダメージは与えられているようだが、致命傷にはなっていないようだ。


(まずいな……打開策が見つからない。ララの必殺技? とやらが効かなかったら、本当に一回撤退した方がいいな)


 ちらりとララを見ると、口元に笑みを浮かべていた。


「いよっしゃ! 準備でけたぜ! 巻き添え食いたくなかったら一旦離れろ、ティリス!」


 ララの声に反応して、ティリスは少し大食植物アドニスから距離を置いた浅瀬に降り立ち、両手に炎を灯した。おそらく、炎系の上位魔法でも使うのだろう。

 この連携で効かなかったら、一旦撤退だ。俺はそう思いながら、戦場を見守った。


──────────────────


【作者コメント】


なんと、今回で100話!

いつも読んで頂きありがとうございます。これからも宜しくお願い致しますね。

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